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学生はグループワークで、教員はペアファシリテーションで、学科にチームが生まれる【東邦大学】連載1-3

東邦大学理学部は初年次教育改革を行い、2023年度から総合教育科目「初年次セミナー」がスタートしました。授業の導入パートにチームビルディングプログラムを取り入れ、その後の10週間を1クラス2人の先生がペアで担当しながら進めていく建付けでした。新しいスタイルで始まった科目は全授業が無事に終了。学生や、授業を担当した教員の反応はどんなものだったでしょうか。初年次教育の目的を「人間関係づくり」と位置づけ、シラバスをつくり、授業のファシリテーターを務める教員の研修を担った千葉 康樹先生(東邦大学 理学部教養科 教授)に、今回の取り組みの手応えを聞いてみました。





――授業開始1か月前のファシリテーション研修は、全体に対してすごく刺激になったでしょうね。そして、4月からついに「初年次セミナー」が正式に科目としてスタートしたわけですが、どのように実施されたのでしょうか?


千葉先生 1クラスあたりの学生数は40人弱で、理学部の教員が2人ペアになってファシリテーターを務めています。多くのクラスで、学科の教員と教養科目担当教員のペアになっています。10分間の休憩を挟んだ50分✕2コマで、10週間行いました。



――ファシリテーション研修を受けた先生が、チームビルディングの構造を取り入れたプログラムを運用されたわけですね。受講された学生さんの反応はいかがでしたか?キャリア教育科目のころとの違いは感じますか?


千葉先生 そうですね。キャリア教育科目とは異なり、人間関係の構築を一番の目標にした科目でしたので、最大の成果はそこにあったと思います。最終週に学生にアンケートをとりましたが、「この授業は友人作りに役立ちましたか」という設問への肯定回答率は非常に高かったです。記述式の感想を読んでも多くの学生が「友達ができた」と肯定的なコメントを残していて、やっぱりやってよかったなと思いました。

ゴールデンウイーク直前の3回目の授業の時に「来週はこの授業はお休みです」とアナウンスしたところ、数人が「他の授業は休みでいいけれど、この授業は休みでなくていい」と言ってくれました。それくらい楽しい授業だったようです。



――それは嬉しい反応ですね。


千葉先生 高校までは毎日クラスで同じ顔に会うので、自然に友人関係をつくれますが、大学ではそうはいきません。学生は授業ごとに教室が変わり、同じ学生と顔を合わせていても席が固定しているわけではないので、人間関係が一定以上に広がりません。初年次セミナーで人間関係構築の仕掛けを設けて、毎週展開した効果は大きかったと思います。



――プログラムは想定通りに展開できたのでしょうか?


千葉先生 「人間関係づくり」の目標に対しては、想定通りでもあり、想定を上回りもしました。初回の授業が始まる前の4月5日に『自己の探求』を実施してグループをつくり、そのグループをキープした状態で初年次セミナーに入ってもらいました。そこはひとつ工夫したところでした。その後、半分の5週目が過ぎたところで、ハードルが高いかなと思いつつも、グループ替えを行いました。各自が自分を表すキーワードを書いた紙を掲げて、メンバーを探すというやり方でグループ作りをしました。すると、あるクラスで興味深いことが起きました。



――具体的にはどんなことですか?


千葉先生 最初の10分くらい、みんなグループづくりに入らないで、ずっと無駄話をしていたんです。もう一人の先生は、少し焦って「どうしましょう、介入しましょうか」と言われたのですが、もう少し見守ることにしたんです。すると、いつの間にかおしゃべりが収まって、教室が静かになったかと思うと、サササっとグループができていったんですよ。一瞬、何が起こったのかわからなかったんですが、今思えば、ある種の「助走」が必要だったのかもしれません。



――学生さんたちがおしゃべりをしながら先生の介入を待ってみたけれど、そのうち「これは自分たちで決めなければならないのではないか」と気づき、誰かが動いて、全体が動いたということなのかもしれませんね。


千葉先生 グループ作りは自分たちで決めてやる、というのが大切な方針だったので、彼ら自身で決めてくれてよかったです。新しいグループになってからも、お互いに前から知り合いであるかのようにすぐグループが機能しました。今年は学科をA・Bの2つのクラスに分けて、Aクラス内、Bクラス内でのみシャッフルをしたのですが、来年は同学科の他のクラスやよその学科のクラスと混ざるようにシャッフルするなど、もう少しハードルを上げてもいいのかなと思いました。



――その試みも面白そうですね。


千葉先生 グループ内ですごく仲良しになって、その分、後半では、グループワークに真剣に取り組めない班も出てきましたので。



――チームビルディングプログラムの『自己の探求』の体験から始まって、初年次セミナーで何週間かグループで過ごして、個に対する安心感だけでなく、場に対する安心感も生まれてきたからでしょうね。仲良くなったグループを変えると言われてイヤだという人もいたでしょうけど、動いてみると次のグループの人とも仲良くなれたし楽しいな、と感じたのではないと思います。


千葉先生 そうですね。



――授業を担当された先生方はどうでしたか?


千葉先生 みなさんちゃんと準備してくれて、授業をやりやすくするため個々に工夫もしてくれていたと思います。最初の数週間は、教員からの問い合わせが多かったのですが、5回目あたりから、だいたいやり方もわかってきたようで、問い合わせは減りました。みなさん、問題なく最後まで進めてくださいました。



――先生同士の情報交換などはあったんでしょうか?


千葉先生 各クラス・担当から質問やコメントを出してもらうため、スプレッドシートで掲示板を共有していたんですが、書き込みのピークは3~4週目まででした。おそらく後半は学科の教員同士で話し合って進めてくれていたようです。毎週金曜に次週の資料、プリント、留意事項などをセットして各学科に配っていましたが、そのときのリアクションでなんとなく様子はつかめていました。



――なるほど。最初は「これでいいですか」と確認を求めていたけれど、途中からは「ここは考えてやればいい」と各自が判断したんでしょうね。初年次セミナー全体について感じたことをお聞かせください。


千葉先生 まずは無事に終わって成果も上がってよかったと安心しています。今回は誰も経験のない新しい科目の立ち上げで、しかもファシリテーションをするのが初めてという人も多くて、授業として成立するのかなという不安はずっとありました。あまり経験のない教員に参加してもらって、一からチームをつくるという初めての経験をさせてもらえました。



――ファシリテーターをした先生方の反応はいかがですか?


千葉先生 みなさん「やっと終わった」と思っているのではないでしょうか。やっぱり、疲れたと思いますよ。ご自身の専門科目の授業と比べると、負担は大きかったのではないでしょうか。毎週この授業のことが頭にあったでしょうから、ストレスも感じていたと思います。



――先生によっては、今後も継続してこの科目を担当したいという要望があるんでしょうか?


千葉先生 わりと多くの先生が、来年も担当してくださるのではないでしょうか。



――それは先生自身も楽しかったからでしょうか?


千葉先生 聞いてみないとわからないですが、やってみたらそれほど大変ではなかったのかもしれません。一番大きいのは、アンケートで学生の大多数が「この科目があってよかった」と回答してくれたことでしょう。彼らの大学生活のスタートの役に立てて、よかったと思っています。



――最後に、今後の展望についてお聞かせください。


千葉先生 今は授業が終わって2週間経ち、ふりかえり会をしようと企画している段階です。そこでどういう声が出てくるか次第ですが、来年度に向けて修正をして、きちんと2年目のスタートを切りたいですね。

私は今の初年次セミナーが最終形ではないと思っています。いろいろな大学が初年次セミナーと銘打って授業を展開していますが、内容や形式はまちまちです。各教員の設定したテーマに沿ったゼミ形式の授業もあれば、アカデミックスキルの修得にフォーカスした授業もあります。私たちの初年次セミナーは、本学なりの歴史と経緯があって「このタイミングでやるならこんな内容」になっています。だから、立派なものをつくったからしばらくこれで大丈夫、ということはなくて、学生の変化に合わせて常に変えていく用意をしていないといけないでしょう。



――専門が異なる先生がペアを組み、1つの科目を2人で助け合いながらやりきったなんて、大学教育ではあまり聞かない事例で、先生方にそのノウハウが蓄積されたこともすごいことですよね。


千葉先生 そうですね。私はキャリア教育科目での実践経験があるので、こういうワークをやると学生はこういう反応をするだろうと、ある程度予測がつくのですが、経験がない人には、見当のつかないことが多く、心配が大きかっただろうと思います。ありがたいことに、先生方は私のつくった手引書を信じてくれて、学生に伝えるべきことをパワーポイントスライドにていねいに落とし込んでくださり、周到な用意をしてくれました。不安もあっただろうけど、チャレンジしてくれて頑張ってくださったなと思います。



――先生方の間にも自然と助け合う流れが生まれ、チームビルディングが進んだことも今後の活動に大きく影響しそうですね。



※肩書・掲載内容は取材当時(2023年6月)のものです。

 

今回は、東邦大学理学部の初年次教育科目の立ち上げに関わるプロセスを、責任者である千葉先生にお伺いしました。

新しい科目、新入生480名対象、必修、

担当教員は20名、10クラス同時開講。

想像するだけで大変なご苦労をされたことと思います。とりわけ20名の教員が力を合わせて一つの科目を成立させ、成功に導くということは、まさに組織開発的な知見が役に立つと思いました。そこでCummingsとWorleyが示した組織開発における介入のポイントを参考に、この取り組みをふりかえってみたいと思います。

右図はCummingsとWorleyが示した組織開発における介入のポイントです。

①の戦略の観点では、千葉先生が何度もおっしゃっていたように、新入生の人間関係作りを目標にした科目づくりでした。ここがハッキリと教員間でも共有されていたことがとても重要な点だったかと思いました。

②のマネジメントの観点では、千葉先生の授業進行案はありましたが、現場での工夫の余地を大いに活用するようにされていたことが、先生方のやる気につながったように思いました。また先生方がペアになってクラス運営するということも、助け合うことや互いの違いを活かすことにつながったかもしれません。

③の構造の観点では、チームビルディングの構造を取り入れた授業設計になっていました。基本構造があると、それを元にした様々な工夫の生まれる余地ができ、一方で他のクラスとまったく違ったことをやっているということにはなりにくいと思います。

④のヒューマンプロセスの観点では、教員に対する事前の研修にもチームビルディングをプロセスを入れておられたことが大きかったように思います。先生方が授業の進行における工夫を共に考え、共有していくことにつながったのではないでしょうか。

こうやって構造図に置くと、少し静的なものに見えてしまうかもしれませんが、北森先生は、チーム(組織)を動的に捉える重要性について、その著書に書かれていました。今後このチームがどのように動いていくのか、楽しみにしたいと思います。

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