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授業後のリフレクションが明示するチームビルディングのプロセス【十文字学園女子大学2-2】

更新日:2023年4月18日

教育体制改革を進める十文字学園女子大学では、2021年度より共通教育に「異学年・異学科」の学生を集めて行う2つのゼミ科目(課題解決ゼミナールと総合ゼミナール)がスタートしました。このゼミは組織開発やチームビルディングの要素を取り入れているのが特徴で、その背景についての詳細は前回の連載【教育担当副学長 安達一寿先生編】でご紹介しています。「協働して物事に取り組むにはチームビルディングが必要で、人間関係が構築されてチームが形成できればゴールにたどりつけるから、スタートの部分は大切にしたい。ただ、チームビルディングについては教員のほとんどがノウハウをもっていないので、それを得意とする人の力を借りたい」と安達先生から相談を受け、弊社のスタッフがゲスト講師として授業に協力することになりました。科目担当の星野 祐子先生(教育人文学部 文芸文化学科・准教授)は、この授業のスタイルをどのように感じていたのでしょうか。ゲスト講師に接した学生の様子や星野先生の気持ちについて伺ってみました。



――ゲスト講師として弊社のスタッフが加わったことで、学生さんにはどんな影響があったのでしょうか?


星野先生 いつもの先生相手だと甘えも出てしまいますが、スポット的にゲスト講師が入ると授業が引き締まる気がします。また、いつもとは違う大人から言われる言葉には納得感があったようです。同じ内容でも違う人から違うトーンで言われると、印象が変わりますからね。2人で授業を行う効果をすごく感じましたね。



――星野先生ご自身はどうですか?弊社スタッフと一緒に授業をされたことで、どんなことを感じましたか?


星野先生 外部の人と一緒に授業をするという経験は初めてでしたが、プログラムをつくるうえでもいろいろとご助言やご提案をいただけたことに感謝しています。

もし、この科目を一人で担当した時に、どんなことに困るかといえば、チームビルディングについて、学生に理論的に説明できないことです。チームの望ましい在り方について、感覚的に伝えることはできても、うまく言葉にできないということはこれまでもありました。その点、ラーニングバリューさんは専門的な知識に基づいて、「今のチームの状態はこういう理論で説明できるかも」といったことを教えてくださるので、私もありがたいですし、学生もそういう人からレクチャーを受けるとしっくりくるんだろうなと。

専門の方と一緒に授業をつくることで、理論的な補強ができ、私にとっても大きな学びとなりました。



――理論的な解説の一つとして、授業の中盤あたりで「タックマンモデル」の話があったのではないかと思いますが、いかがですか?


星野先生 そうですね。その解説が学生にはすんなり受け止められたようです。「今、自分たちがモヤモヤしたり焦っていたりしてうまくいかないのは、チームビルディングにおけるこの過程にあるからなんだ」ということを理解して、「大丈夫、意見はぶつけあってもいいし、思ったことを伝え合うほうがいいよね。それで強い組織になっていくんだよね」と、自分たちの関わりを俯瞰して捉えることができ、その後の活動も頑張れたように見えます。



――混乱期にあった学生さんに理論的な解説が刺さったというわけですね。


星野先生 2021年度の履修者で半数を占めたのは、1年次よりグループワークを積極的に取り入れている学科の学生たちでした。つまり、1年生の時からグループワークの経験は多くあるんですね。でも、理論に基づき理解しているかというとそうでもない。今回、組織の成長というものを理論で教えていただいたことで、自分たちの活動を客観視できるようになり、自分たちはこういうステップを経ていくんだなという見通しを持てるようになったと思われます。



――不安も成長のプロセスの一環であることが分かり、安心できたのかもしれませんね。弊社のスタッフの話と学生の様子を重ね合わせて、星野先生が感じたことはありましたか?


星野先生 タックマンモデルの解説には私も納得しました。イベントやプロジェクトを進めていく中で、うまくいかないことって絶対あるんです。それこそ、私も「プラスちゃんくらぶ」など、さまざまなプロジェクトに携わっている際に、学生間でトラブルがあったと聞くと、どうしたらいいんだろうと考えたり、うまくいかないことが起こると焦ったりしていました。でも、焦らなくてもいいんだな、そういうことも組織としてあってもいいんだな、ということを理解することができました。

それから、ラーニングバリューさんが授業の中で「何が起きたのか書いてみよう。良い、悪いではなく、あったことを見つめてみよう」と指導していらしたのが印象的でした。私は、教員という立場も影響しているのでしょうか、起きたことに対して自分の思いや評価をうまく言葉にしなくちゃいけない、という感覚がありました。おそらく学生にもそのような指示をしていたと思います。でも、「あったことを見つめてみる段階」が大切だとわかりました。



――なるほど。私たちはそれを「ふりかえりとわかちあい」と言っています。


星野先生 そうですね。あったことを一緒に感じてみよう、ということですね。教員はすぐ成果とか評価とかを求めてしまいがちですが、ステップを経てジワジワとわきあがる感情を大切にしないといけないなと思いました。そういう段階を経てこそ、きちんとした評価につながるのではないでしょうか。



――星野先生は課題解決ゼミナールでの取り組みをご自身の研究課題として取り上げ、「第28回 大学教育研究フォーラム」で発表されましたよね。その中で、学生のリフレクションを分析しているのを拝見しましたが、私はすごく分かりやすいと思いました。


星野先生 学生のリフレクションにみられる語彙を、関連性に基づきグルーピングするテキストマイニングは私の研究領域でもしばしば用いる手法です。言葉をどのように捉えるかとか、学生のふりかえりや感想、傾向をどのようにまとめたらいいのか、といったところに、私の日本語学の知識や経験が生かせています。安達先生と一緒に取り組んでいるICT活用なども、外からは日本語学と遠いように見えるかもしれませんが、実は日本語学は教育工学に近いんです。



――そうですよね、わかります。ちなみに星野先生の授業では毎回リフレクションをやっているのですか?


星野先生 はい、そうです。「今あったことを言葉にしよう」と、二次元バーコードを読み取らせてアンケートフォームに入力してもらっています。授業の冒頭では、前回はこんな意見が多かったとかこんなことを書いてくれたとか、ここまで自分の気持ちを言葉にできているとか、学生の回答を取り上げて見せています。最初のうちは、「役に立った」「ためになった」という回答ばかりなので、どういうところが役に立ったのかも書こうというように、書き方なども含めて教えましたね。



――これは発表のスライドの中にあったリフレクションにおける学生の声ですが、どんな設問を用意すると、こうした回答が出てくるのでしょうか?アンケートフォームの設問はどのようなものですか?



星野先生 印象的だったことや新たに学んだことを書きましょう、といった程度で、細かく質問を設定しているわけでも、凝った聞き方をしているわけでもありません。ですが、今振り返ってみると、毎回学生のコメントを取り上げて紹介することで、徐々に「こういうことを感想で書くんだな」とか「ここまで気持ちを見つめて言葉にできた人がいるんだな」とか、学生たちが相互に学んでいったのかなと思います。



――星野先生が学生の「気持ち」を引き出したいと思うのはなぜですか?


星野先生 成長しているという実感を持ってほしいからだと思います。課題解決ゼミナールは知識を身につける授業ではありませんし、テストがあるわけでもないので、感じたことを自分の中でとどめておくだけでなく、他者に伝えることを大事にしたいと考えています。私はいつも学生に、自分がやってきたことについて言葉で表現できるようになってほしいと思っています。この授業に限らず、良かった・悪かっただけでなく、言葉を選んで自分の感情を書いてほしいなあ、と。



――自分の「感情」を他者に伝えて欲しい、のはなぜでしょうか?


星野先生 同じ場所にいる人が感じていることを共有して欲しいからでしょうか?そんなに深く考えていませんでしたが……。



――面白いです。一般的に、リフレクションをする際には「WHAT」を考えることが多いんです。ですが、私たちがチームビルディングをする時は、リフレクションといわずに「ふりかえり・わかちあい」と表現し、気持ちや感情を出してもらうための問いを立てるようにしているんです。例えば、いきなり「どんな気持ちでしたか?」と問うても答えを書きにくいですよね。そこで、「あなたは自分のいいたいことを発言できましたか」という設問を用意して、それに対して点数をつけてもらいます。これは、5点とか4点とかつけた点数に意味があるわけではなく、「その点数をつけた理由」をわかちあってもらうためです。そうすると「気持ち」が出てくるんですよね。「恥ずかしかったから」とか「言いたいことがあったけど言えなかった」とか。そういう仕掛けをして、気持ちや感情を引き出すようにしています。ですから、星野先生が学生の気持ちを引き出すリフレクションの仕掛けをつくっておられることは、チームビルディングのプロセスとマッチしている気がしたんです。


私たちは「コミュニケーション」を扱う時には、コンテントとプロセスを分けて考えます。その場合、言葉になっている部分が「コンテント」にあたるのですが、それはコミュニケーションの氷山のごく一角でしかなく、その時思っていることや気持ちといったお腹の中にある「プロセス」のほうがはるかに大きいんです。それが表に出始めるとチームビルディングが進むのですが、その感じを星野先生は自然に課題解決ゼミナールで実践されているんだなと思いました。


星野先生 うまく言えないのですが、私は日本語学の研究者であるだけでなく、根っこの部分で学校教育に関心を持っているからかもしれません。私のように幼稚園から小中高までの教員免許を持つ大学教員も珍しいですよね。おそらく、大学教員としてではない部分、たとえると、小中学校の教員がクラスづくりをする際に、一人ひとりの気持ちを聞いて寄り添うことに似ているんだろうと思います。


※肩書・掲載内容は取材当時(2022年6月)のものです。

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