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「見つめる、見守る、信じる」コーチ職にも活用できるファシリテーションスキル【大手前大学】連載3-3

更新日:2022年6月23日

大手前大学では2012 年から、新入生オリエンテーションの一環として行われる『キャリアデザイン 0.5』で、先輩学生がファシリテーターを務めるチームビルディングのプログラムを導入しています。教学運営室IR担当の吉川 博行さんはプログラムを試験的に導入した2009年頃からこの取り組みに携わっており、チームビルディングでの気づきを応用して、自身がコーチを務めるラクロス部の指導にも生かしているそうです。チームビルディング、ファシリテーションを経験することが学生や自身にどのような気づきや変化をもたらしているのか、聞いてみました。



――2021年はコロナ禍の影響で「キャリアデザイン0.5」はオンラインで実施しましたが、いかがでしたか?


吉川さん あれはよかったです。オンラインでやったのでオンライン授業に入るのもすごくスムーズだったと聞いていますし、オンラインの中であっても仲間づくりはできていました。ただ、学生は学生であるうちにコミュニティを広げておいた方がいいと思いますし、やはりオンラインでは画面の中のコミュニティから外に飛び出すことはできないので、「オンラインだけ」というのも良くないのではないでしょうか。オンラインは実施しやすいし、自宅からでも参加できるので参加率も高かったですが、こういうプログラムを対面でやるのは絶対必要だと思っています。私たちもコロナ禍を通じ、研究会等オンラインで実施がほとんどでしたが、その後の雑談から生まれるアイデアの場がないことについて、本当に影響を感じています。今まで当然と思っていたことが実はものすごく大切だったと気づかされたのがこういった人間とのやり取りなんだろうと思っています。



――2012年から学生ファシリテーターによる「キャリアデザイン0.5」が始まって約10年。ファシリテーター経験者はその後、クラブや課外活動などでもリーダーシップを発揮して活躍しているケースがあると聞きました。吉川さんは学生に変化を感じていますか?


吉川さん 「PBL特別演習」の終了後は、大学のマスの中の一人になってしまい、その後、個別に追跡はできないので、すべてが見えているわけではありません。でも、私自身が体験したプログラムですので、良いと思って学生にも勧めています。学生も困難を乗り越えながら取り組んでいますし、把握できている範囲の学生については、しっかり卒業していっているので、プログラムの力を信じています。ただ、ファシリテーター養成プログラムを受けることの就職活動への影響については、データ上は今ひとつはっきりとはしていません。明確にデータをとったわけではありませんが、私が聞く範囲では、ロジカルシンキングなどディベート型授業の履修者が増えている印象はあります。

教学運営室に着任してから、「キャリアデザイン0.5」プログラムへの理解が広まるよう援護射撃をしているつもりです。もっと学内理解を広げていくことが今の課題でしょうか。体験した学生は成長もするし、満足度も高いので、それを取り巻く教職員の関わりをもっと広げていけるよう努力もしていきたいと思っています。 しかし、「キャリアデザイン0.5」という名称も授業化した際当時の学生が考案した名称ですが、今や普通に科目名称のように扱われている。まさにレガシーを学生が創った。すごいですね。その想いは残していかなければと思います。



――吉川さんご自身はチームビルディングのファシリテーターを経験したことで仕事への変化は感じていますか?


吉川さん 経験してから学生課や教務課においても役立ちましたが、特に高校訪問を担当した際、ファシリテーターの体験がそこで役に立ったんですよ。学生との対面でのやり取りはどちらも少しは信頼関係が構築されています。しかし、初見の進路指導の先生との面談では、こちらのほうから「大手前はこんなことやっています」と伝えてもなかなか聞いていただけないんです。ですが、先に相手の話を聞こうとすると、最終的にその場では大学の話を全然せずに終わったとしても、次にお会いした時にこちらの話も聞いていただける。まず相手が何を考えているのかを聞くために、こちらが促すというのは大事だなと思いました。



――そして今はIR担当ですよね。


吉川さん 様々な部署の経験も非常に役立っていると感じますが、ファシリテーターをやっていなければ、データを上辺だけ見てしまったかもしれません。現在はIR担当ですが、前任の教学運営室のIR担当の先生はかなり数字の扱いに精通した人ですが、その人もファシリテータープログラムを受けたことで人生が変わったように見えますし、彼からは数字だけでなく、その裏には学生が息づいているということを見せてもらいましたから。そういう先生と協働したことで、職員、教員の違いはあるけれど、同じ場所で働く者同士、どういう協働がベストなのかなと考えるようにはなりましたね。



――教職協働。よく耳にするワードではありますが、簡単ではないようです。あらゆる場面でチームビルディングが浸透すれば、大学はもっとよくなるんでしょうか?


吉川さん みんな大学をもっとよくしようとする気持ちはあるのですが、そのベクトルがあちらこちらに向いている。しかも、時にはマイナスを向いているのに、本人は前を向いているつもりでいるというケースもあります。その人がなぜそう考えているのか、本人も周囲も気づかないといけないのでしょうけれど、残念ながらみんな忙しすぎるのかもしれませんが、なかなか難しい。そういうことに気づけるようになれば、変わっていけるのかもしれません。



――ところで、吉川さんにはもう一つ、「ラクロス部のコーチ」という顔もありますが、そちらでは何か変化はありますか?そもそも、どういうきっかけで職員がコーチを務めているのか、聞かせていただいてもいいですか?


吉川さん きっかけは、私が学生課にいた時に、ラクロス協会への登録手続き上の不備で試合出場停止になったことです。経緯を聞くとあまりにかわいそうで、私のほうから直接ラクロス協会にかけあったりもしましたが、学生はとても落ち込んでいて。私も球技は好きなので、彼らのことを気にかけるようになり、どんな練習をしているのか様子を見にいくようになったんです。



――ラクロスの経験は?


吉川さん ありません。近所のおっちゃんが野球少年の練習に声をかけるように、「もうちょっとこうしたらいいんちゃうん?」などと彼らの練習に口を挟んでいるうちに、「うるさいから一緒にやりませんか」というような流れになって(笑)。やるならちゃんとやらねば、と道具を買って練習に加わるようになりました。こうして彼らに縁をつくってもらって、ラクロス協会のA級ライセンスも取得して、関西や全国の指導者の講師役もやらせてもらうようになったのですが、今でも私の中では学生支援の一環としてやっていることです。



――競技経験ゼロから指導者の指導役も務められるようになるとは、なかなかのものですね。競技指導にもファシリテーションは生かせるものなのでしょうか?


吉川さん そうですね、生かされていることといえば「見つめる、見守る、信じる」でしょうか。私の場合、競技経験はないけれどファシリテーションの経験を生かして、黙っている子が何を考えているか、例えば次のプレーのことを考えているのか、単純に体調悪いのか、といったことを見極めて声をかけるようにしています。また、「次のプレーはこうしよう。練習をこうしよう」と指示的に声をかけることもありますが、あくまでもサジェスチョンはするけれど、選択するのはプレイヤーです。彼らが選択したことを信じて、やったことについてどうだろうかと一緒に考えるようにしています。

また、ラクロスはスティックを持ってボールを投げるのですが、「もっと右手をしっかり使って投げなさい」と指導者が言った場合、スティックの握り方が、右手が上・左手が下の時のことなのか、左手が上・右手が下の時のことなのかわからないですよね。相手をよく見ていると、何を悩んだり考えたりしているのかがわかるので、こちらがもっと具体的に伝えるべきだということにも気づきます。



――なるほど、確かにそういう指導はわかりやすい。よく見ることが、よりよく伝えることにつながるということですね。


吉川さん 相手の話を傾聴するとか、見守るということは、指導者講習でもよく話すことです。チームビルディングのファシリテーター養成プログラムにはそこまでのねらいは含まれていないのかもしれませんが、私なりに咀嚼して理解して応用しています。さらに、これを職員としての通常業務でも生かせたら良いのですが…これが課題で。業務で生かせるようになるには、一度出家して、聖人君子にならないとできないだろうなと思います(笑)。



※2021年に実施された「キャリアデザイン0.5」の様子は大手前大学のホームページでもレポートされています。紹介文面は吉川さんが関わっています。


※肩書・掲載内容は取材当時(2021年8月)のものです。

 

 吉川さんからは、ファシリテーションにとって大事なことを、吉川さんの経験と言葉で教えていただいたように思います。ファシリテーションにとって観ること、聴くこと、見守ること、はとても大切です。北森先生はよく、相手主語で観る、聴く、とおっしゃっておられました。吉川さんの話は、その「相手主語」と言うことにつながっているように思いました。相手をよく観て、相手の話をよく聴いて、何を悩んでいるのか、何を考えているのかを感じ取る。そしてサジェスチョンはするものの選択するのは相手自身であり、その選択を尊重して一緒に考える。なかなか難しいことだと思いますが、そういうスタンスでありたいな、と思いました。

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