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チームビルディングで学生の主体性を養う【成城大学】連載2-2

成城大学では2019年から入学前教育に、学部単位で実施していた専門分野の先取りプログラムに加えて、大学でのアクティブ・ラーニングに対応するための意識や姿勢を養うためのチームビルディングプログラムを導入。現在はプログラムのファシリテーターを先輩学生が務めており、新入生のみならず、在学生の成長の場としても機能しています。新しいスタイルの入学前教育が学生に、大学に、どんな変化をもたらしているのか。一連の取り組みを見守り続けている教育イノベーションセンター・課長の佐々木貴之さんに聞いてみました。



――2019年入学者からチームビルディングプログラムを活用して「入学準備プログラム」を実施されています。2020年からはピアサポーターの学生がファシリテーターを務めることになりました。教育イノベーションセンターが所管の部署となりピアサポーターの立ち上げも行ったと聞いていますが、その経緯について教えていただけますか?


佐々木さん 本学にはこれまでにも学生同士でさまざまな支援を行う4つのサポーター活動がありました。国際、キャリア、図書館、バリアフリーと大学の部署に点在しており、どちらかといえば課外活動に関するものが中心でした。それで、APの申請の際に、サポーター活動を活性化させるために、大学全体として学習そのものに対するサポーター団体を立ち上げることになり、ピアサポーターができたのです。

さまざまな企業からのヒアリングやアンケートで、「成城大学の学生は、非常にコミュニケーション能力は高いけれど、もう一歩前に出る姿勢が足りない」という意見もいただいていました。学生自身の主体的な学びを促す環境づくりをしたいというのも、立ち上げの理由の一つです。



――サポーター活動の場をつくることが、学生の自主的、主体的な姿勢を養うことにつながると考えたわけですね。入学準備プログラム(スタートアップセミナー)は、1年目は弊社のファシリテーターが担当しましたが、2年目からはピアサポーターを中心とする学生ファシリテーターが担当することになりました。学生に入学前教育を任せることに対して、佐々木さんは不安ではありませんでしたか?


佐々木さん もともとサポーターとして活動しているメンバーが中心でしたので、不安はあまりありませんでした。むしろ、ピアサポーターは日頃からいろんなことを学んでいるので、入学準備プログラムがよいアウトプットの場になったと思います。ピアサポーターは毎年4月には新入生対象の時間割相談を行っているので、入学前準備プログラムの参加者の時間割相談への誘導にもうまくつながったようです。また、参加者アンケートの結果を見ると、「(先輩ファシリテーターの姿を見て)自分もああいうふうになってみたい」という声も多かったんです。



――入学前にスタートアッププログラムでピアサポーターの存在を知り、入学後の時間割相談でも接点がある。新入生にとっては「こんな風な大学生になりたい」というロールモデルになっているのですね。ピアサポーターの活動も一連の流れで活性化するし、新入生にとっても先輩学生との接点を持てたことが、スムーズな大学適応へとつながる。まさに一石二鳥と言ったところでしょうか。

2020年は2月の入学準備プログラムは対面でできたものの、新型コロナウイルス感染症の影響で、その後はすべての授業がオンラインになってしまいました。2021年の入学準備プログラムは、先輩ファシリテーターの事前研修も、本番も、すべてオンラインで実施することになりましたね。


佐々木さん 2020年に対面で実施した写真を見ると笑顔がとても良くて。プログラムの最後でメッセージカードを直接わたしあうシーンもありましたが、そういう経験が参加者の心に非常に残るんだろうと思いました。対面で集まることは学生にとって非常に大切なのでしょうが…通常授業もオンラインでしたし、夏の終わり頃には、2021年の入学準備プログラムはオンラインにならざるをえないだろうと判断して準備を進めました。



――学生ファシリテーターは2年目でしたが、変化は感じましたか?


佐々木さん もともと入学準備プログラムは参加者(入学予定者)に自主的にワークに取り組んでもらうため、介入する際は参加者の様子を見るようにしているのですが、コミュニケーション能力が高い上級生が介入しすぎることが気になっていました。そういう課題も、2年続けて取り組むことでより深く理解でき、スキルも増しているので、よくやってくれたと思います。



――年々経験を積み重ねる学生が増えたり、自分の経験を後輩に継承したりするようになったり。先輩が後輩を育てるサイクルもできて、ピアサポーターの組織化もうまくいっているということでしょうか。


佐々木さん 組織としての知識やスキルも上がっているのかなと思います。まさしく、チームビルディングですね。



――ここまで学生さんについての話でしたが、学部・学科の反応についても伺いたいと思います。希望を募って経済学部と文芸学部の一部学科だけでの実施から始まり、年々、採用する学科も増えていますが、広げていくのにどんな苦労がおありでしたか?


佐々木さん 各学部学科で行っている既存の入学準備プログラムは専門教育の先取のようなものですので、チームビルディングのような趣旨のプログラムに理解をしてもらうには少し時間を用しています。2021年に採用する学科が増えたのは、もしかすると、授業がオンラインになったことによる後押しがあったのかもしれません。



――授業のオンライン化が、新入生の自主性やコミュニケーションに働きかけるプログラムの必要性を感じる機会になったということですか?


佐々木さん 授業の中でグループワークをしようとすると、対面で行っていれば周りの声が聞こえたり様子がわかったりするので、なんとなくできている雰囲気も感じられるのでしょうが、オンライン授業でブレークアウトセッションのぞいてみると何もできていないグループもあるようです。これまでなんとなくできているように思っていたけれど、「できている・できていない」が明確になった。そういう場面を見たことが、入学前の段階から主体的な学びの姿勢を整える重要性への理解を深めてくれた気もしています。また、最近は受け身な学生が増えていているという変化も感じています。



――真面目で言われたことはきちんとやるが受け身な学生が多い。そういう気質の変化については他大学でもよく耳にします。先日、成城大学のピアサポーターや学生ファシリテーターの学生さんに話を聞く機会があったのですが、受け身とは正反対で、積極的な印象を受けました。教育イノベーションセンターで進めている取り組みが、着実に学生の主体性を育むことにつながっているのではないでしょうか。


佐々木さん 実は、今活躍している学生たちも、ピアサポーターに入ってきた当初はどちらかといえばうまく話せず、人の役に立つことをやってみたい気持ちはあるものの積極的ではない、というタイプだったんです。そんな彼らが成長できたのは研修の成果でもあり、入学準備プログラムや時間割相談など学んだことをアウトプットする機会があって、場数を踏めているからでしょうね。



――ピアサポーターの学生さんがチームで教え合いしながら主体性を身につけ、実践のチャンスを通して成長していることがわかりました。今後はこの活動をどのように続けていくのでしょうか?

佐々木さん ピアサポーターが入学準備プログラムに関わるようになって3年が経ち、少しずつ学生が主体的に関わる割合が増えてきています。今後は、さらに活躍の場を増やしていきたいですし、それを主導するのは私たちの職員や教員ではなく、学生であってほしいですね。学生たちの大学ですから。自分たちで考えて「やってみたい」ということを増やしてくれたら、私たちはそれをサポートしていくつもりです。


※肩書・掲載内容は取材当時(2021年5月)のものです。


 

 前回の編集後記にも書かせていただきましたが、成城大学さんの取組みでは、ピアサポーターを中心とした学生ファシリテーターたちの、「年度が変わるにつれて刻々と変化した状況に合わせて役割が変わっていき、それに立ち向かう中で個々やチームが成長していく」さまが現れていて、まさにチームビルディングの成功例だと感じました。

 そして「このような学生集団を育てるのにはどのようにすればいいのか」のヒントが、佐々木さんのお話の中にたくさんあったように思います。中でも佐々木さんの『学生さんを信じて任せ、でも放任ではない感じ』のスタンスが、とても重要な気がしました。

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