成城大学では入学前の新入生の不安を解消するなどのねらいから、2018年度よりチームビルディングを活用した入学前教育「入学準備プログラム(大学生活スタートアップセミナー)」を実施しておられます。ピアサポーターを中心とする学生ファシリテーターがプログラムの進行を担当するようになったり、オンラインで実施したり、年々新たな手法を試みていらっしゃいます。学生ファシリテーターの成長や創意工夫をそばで見守っている教育イノベーションセンターの職員の肥田奈緒子さんに、取り組みの進化の様子についてお話を伺いました。
――チームビルディングを活用した「大学生活スタートアップセミナー」を初めて実施した2018年度は弊社スタッフがプログラムのファシリテーターを務めましたが、翌年からは貴学のピアサポーターをはじめとする学生さんがファシリテーターを務める体制に移行しました。学生ファシリテーターを活用することになった背景についてお聞かせください。
肥田さん 同じプログラムを授業などに採用している他大学でも、学生さんがファシリテーターとして登壇することもあると聞きましたし、ピアサポーターの学びのアウトプットの場にもなるし、彼らならやれるんじゃないかと任せることになりました。学生ファシリテーターは全学生を対象に募集していますので、ピアサポーター以外のサポーター団体の協力や、一般学生からも応募があります。みんな、入学予定者と関わりを持ちたいという気持ちがあって手を挙げてくれているようです。
――学生ファシリテーター育成のための事前研修は弊社で担当させていただきました。その様子はご覧になりましたか?
肥田さん はい、見ました。ケーススタディはするけれど答えを教えることはなく、そこで受け取ったものを学生が自分なりに噛み砕き、理解し、やってみる、といった内容の研修で、高度な内容だと思いました。資料として配布されるものも、マニュアルではなく、「自分で考えてみましょう」というものが多くて。実は私は「こういう場合はこう発言して、行動して」と教えてくれないのかとハラハラしていたのですが、学生はみんな受け取ったものを自分で考え、実際にふるまうことができていたので、すごいなと思いました。
――そうですよね。みなさん本当にすごいと思います。学生ファシリテーターの育成研修は、何か教えるというよりは、自分なりのスクリプトをつくってみよう、ロールプレイしてみよう、というものが中心。しかも、それに対してどう感じたかをフィードバックするのは、ファシリテーターではなく、学生同士でやってもらいます。そういうことが、学生ファシリテーターのチームビルディングにもつながっていきますからね。
肥田さん そうですね。学生同士のつながりも深まっていったなと思います。本番当日もハラハラしながら見守っていましたが、職員が頼んでいたわけではないのに、自分たちなりにどうすれば参加者がわかりやすいか考えてスライドを用意していたり、クラス間の情報伝達をスムーズにするためにLINEグループをつくっていたりして。私も学生に託した部分はあったのですが、こんな資料までつくってくれていたのか!とびっくりしましたし、成長を感じました。
――教えると、教えたところまでになりがちだけれど、教えないと、教えていないところまでできるようになる。チームビルディングができていれば、そういう成長も見られるのが面白い点ですよね。
学生ファシリテーターの育成と並行して、学生から新たな企画が発案されたそうですね。
肥田さん そうです。「大学生活スタートアップセミナー」とは別日程で、入学前に知っておけたら安心できることを学生目線で紹介する「在校生企画」を実施することになりました。この企画は3月に実施予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で中止になってしまいました。中止という決定が出る前までは、学生たちなりに、インスタライブやYou Tubeのライブ配信で実現できるのではないか!と大学に集まって、予行演習をしたり、検討を進めていたのですが、大学側で学生の登校禁止という決断が出てしまい、やむなく中止になりました。彼らも悔しがっていたので、検討段階で温めていた企画を翌年に実現することができました。
――2021年2月・3月の入学準備プログラムはオンラインで実施されました。やむなくという面もあったと思いますが、オンライン化に至った経緯をお聞かせください。
肥田さん 2020年度は授業も最初からオンラインだったので、入学準備プログラムは中止かオンラインの選択肢しかありませんでした。毎年恒例のサポーターズフォーラムもオンラインで実施しましたし、ピアサポーターの育成研修もオンラインで行っていたため、学生たちもオンラインで大丈夫という雰囲気はありました。授業でもZoomを使っているので、学生たちのZoomの使い方についての飲み込みも早かったです。
――先生方の話を聞くと、オンラインで講義形式の授業を行うと「意外にも学生から質問が出る」と肯定的な評価も聞くのですが、グループワーク形式の授業では顔出しもしてくれないので難しいと聞きます。ファシリテーターを務める学生さんからはそういう不安の声はありませんでしたか?
肥田さん 高校生がどれくらいZoomを使えるのか、という心配の声はありました。また、本来の目的である「チームビルディング」や「入学前の不安の払拭」がどこまで実現できるだろうかということも気がかりでした。対面に比べるとできることは限られるけれど、中止よりも、何らかの形でやりたいと考え、オンライン化に踏み切ったのです。
――事前研修もオンラインで行いましたが、対面との違いで感じたことはありましたか?
肥田さん 学生はオンライン授業に慣れていたので、特に違和感はなかったようです。対面での研修と同じようにケーススタディのロールプレイができたのも良かったと思います。学生が気にしていたのは、当日の運営の部分で、誰と誰がどの学部のどのグループを担当するのか、といった部分であり、分担の決定後はLINEでグループをつくって学生同士で話し合いを進め、本番に臨んでくれました。対面と何ら違いなく学生同士の連携も強まっていたように感じます。
――最終的に何名くらいの人がオンラインでの入学準備プログラムに参加されたのですか?
肥田さん 在学生ファシリテーターは22名で前年とほぼ同じ人数。参加者は、1回目は99名、2回目は62名です。当日Zoomに接続できないとか、どうしても画面をオンにできないので抜けた、といった人もいましたが、参加者は前年度よりも増えていますね。
――対応できる人員に限りがあるのに、参加者は増えた。しかも、オンラインになって、混乱はなかったですか。
肥田さん 事前に参加者宛にZoomの接続マニュアルを送ったり、プログラム開始前からお試しアクセスの時間を設けたり、いろいろな配慮はしていたのですが、1回目はZoomの『パスワード』と『パスコード』を取り違える人が続出してしまい、緊急連絡先である教育イノベーションセンターの電話が鳴り続け、大混乱な状態になりました。
――そのピンチはどうやって乗り越えたんですか?
肥田さん SNSです。その前年から入学準備プログラムの学生検討メンバーから「SNSを使いたい」という声が出て、TwitterとInstagramの入学準備プログラム用アカウントを作って活用していたのです。お試しアクセス時間を設けた時も、パスワードとパスコードの取り違えのトラブルが発生した時も、すぐにSNSで情報を配信しました。これは参加者により近い年代の学生ならではの視点で、職員だけだと思いつきもしなかったことです。おかげで2回目は一本も電話が鳴ることがなく、SNSの影響力に驚きました。
――高校生って、そんなにSNSをチェックしているものなんですね。SNSでは普段はどんな情報を発信しているのですか?
肥田さん 学生スタッフが受けた研修の様子を載せたり、参加者に許可をとったうえでプログラム当日の様子を個人が特定できないように撮影してアップしたりしています。これも、学生スタッフから「(プログラムの会場や大学に)どんな人がいるのか分からないと不安」という声があがり、『中の人』の姿を伝えることが安心感につながるということから始めたものです。
――どんな内容をアップするかなど、コンテンツのコントロールは肥田さんがされているのですか?
肥田さん 基本的には学生に託していますが、テスト期間にかかるなど、学生側であまり更新できない時は私が更新したり、「○○について更新してほしい」と頼んでアップしてもらったりしています。おかげでフォロワー数も昨年度にドンと増えました。
※入学準備プログラム「大学生活スタートアップセミナー」の様子は成城大学のホームページでもレポートされています。
●2020.02.25 大学生活スタートアップセミナー
●2021.03.18 大学生活スタートアップセミナー
※肩書・掲載内容は取材当時(2021年5月)のものです。
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