top of page
odlabo

難易度の高いタスクがチームの力を高め、人が集まる循環をつくる【成城大学】連載3-3

成城大学では2018年度から入学前教育「入学準備プログラム(大学生活スタートアップセミナー)」でチームビルディングを活用しておられます。学生ファシリテーターによるグループワーク形式のプログラムの実施は、入学前の新入生の不安を解消するとともに、プログラムを運営する学生の成長の機会にもなっています。タスクがあることでチームが形づくられ、人も集まるようになるという好循環のサイクルはどのように形成されているのか。教育イノベーションセンターの職員の肥田奈緒子さんに聞いてみました。





――入学準備プログラムでは2021年3月には「学生企画」も実施されたんですよね。大学生活スタートアップセミナーには2日間で約160人が参加されたそうですが、学生企画にはどれくらいの人数が参加したのですか?


肥田さん 85人の参加でした。平日だったので、高校の卒業式の予行演習の日だったり卒業式当日だったりして参加できなかった高校生もいましたが、多くの人が参加してくれました。



――参加者の反応はいかがでしたか?


肥田さん まず、学生ファシリテーターから、「自分の学部に入学する参加者たちのグループを担当したい」という希望があったので、学部別にZoomを作成し、実施しました。各学部のZoomでは、大学生の1日のタイムスケジュールをスライドにまとめたり、こうすればバイトもできる、といった学生ならではの視点で進行してくれて。在学生が自分たちでプログラムをつくって、自分たちで進めていく、という意識を強く感じました。

新型コロナウイルスの関係でオープンキャンパスも実施できなかったので、在学生は入学予定者たちに大学のことを紹介してあげたいという気持ちが強かったのだと思います。メンバーの一人が学内のいろいろな場所を撮影して、自宅で編集してオンラインキャンパスツアーの動画をつくってくれました。これは本当にクオリティが高くて、在学生の力がメキメキ上がる経験になったと思います。


特に盛り上がっていた文芸学部では、「終了予定時間になった後も、個別に話を聞きたいという人が多いので残って続けてもいいか」と相談がありました。そこで、希望者には「残っていいよ」とアナウンスをして、臨機応変に質問に対応してくれていたようです。また、他の学部でも、学生生活への質問対応について、終了後にもアプリを活用して在学生が回答を載せ続けてくれていた学部もあります。このように在学生が自分たちで考えて、判断して、動いてくれた、と実感しています。



――ピアサポーターができて今年で5年目ですが、間近で活動を見ている肥田さんは彼らの成長をどのように見ていますか?


肥田さん 執行学年のカラーもあると思うのですが、1、2期生の学生はすごくもがき苦しんでいる様子でした。ピアサポーターの存在の認知が進んでいなかったり、活動の場が定着していなかったりしたので。でも、彼らが苦しみながらも活動のベースを築いてくれたおかげで、現在はアウトプットの場があるので、彼らは自信を持って活動できているなと感じています。

昨年は新型コロナウイルスの影響で、学内にある5つのサポーター団体のうちの4サポーター(キャリア、バリアフリー、国際交流、ライブラリー)は全然活動ができていなかったようなのですが、ピアサポーターだけは「オンラインでやれるんじゃないか」と、学生側からどんどん働きかけてくれたので、ずばぬけて活動していましたね。ずっと研修を重ねてきたということもあるのでしょうが、臨機応変に動ける力や、求められる活動を考える視点やチャレンジする力が成長していますね。



――メンバー募集にも苦戦した時代から、新入生からも憧れられる存在となり、コロナ禍にあっても活動を続ける行動力のチームへ。進化の度合いがすごいですね。


肥田さん 1、2期生の頃は学習サポートデスクも「スタンバイしていたのに誰も来てくれなかった」と学生たちが落ち込んでいる姿をずっと見ていました。そこで自信を失わずに、学生ならではの視点で新入生の時間割相談を始めたことで、ピアサポーターの認知度が広がって、成功体験が積めたのは大きかったと思います。さらに、そうした悩みを他大学との交流を通じて、「そちらの大学でも同じような苦労があったんですね」と共有できて、再び自信をつけて次に挑む。そんなステップを踏んでいるように見えます。



――この図はチームビルディングを起点とした体験学習の循環過程をモデル化したものですが、肥田さんにお聞きしたピアサポーターの活動にもあてはまるような気がします。ピアサポーターを始めとする学生ファシリテーターには、「入学前教育」というタスク、ゴールが設定されていて、そこに向けてチームビルディングが進み、このタスクを達成するためのファシリテーション研修でのロールプレイによるラーニングで、チームビルディングがさらに進む。それを毎年繰り返しながら、成長しているのではないでしょうか。一般社会と同様に、タスクがあることでチームが形づくられ、人も集まるようになるというサイクルがピアサポーターの活動でも起きているように見えます。




――さて職員の立場から、学生主体の活動にどのようなスタンスで関わっているかについても少しお聞きしたいのですが。大人の立場や視点から手を出したい・口を出したい気持ちを我慢する。そのスタンスは肥田さん自身の判断によるものなのか、サポーターに関わる職員間で決めていることなのでしょうか?


肥田さん ピアサポーターのことに限って言えば、特に決まっているわけではありません。ですが、ピアサポーターをサポートする3部署(教育イノベーションセンター、図書館、教務部)の職員が集まって話し合う「ピアサポーター実施連絡会」というものを毎週開いて、その場で「学生にレールを敷いてはいけない」という認識が職員間にあることを実感しています。担当者によってはレールを敷いてあげたくなるタイプの人もいますが、何年も学生に接してきて思うのは、そうすると学生の成長につながらないな、ということです。ハラハラするし、手も出したいし教えてあげたくなっちゃうけれど、彼らを信頼しています。「この子たちはできるよ!」という思いはあるし、私たちがその行き先を操作してはいけないと思うから、見守るに徹している面はありますね。



――ピアサポーター設立当初の苦悩期はどのように見守っていたのですか?


肥田さん ピアサポーター全体に何かを支援するのではなく、当時のリーダーが頼ってきたら悩みを聞いたり、その人がしてほしいことを返したりすることにとどめていました。こうしたらいいんじゃない、というようなことは言わず、学生がやりたいことを極力実現できるような対応を心がけていました。



――こちらから答えを出したり与えたりせず、彼らが自分たちで考えて見つけた苦難の解決方法の一つが時間割相談だった、ということなのでしょうか?


肥田さん 「こういうことをしてみたい」「職員さんにこれはお願いしたい」と言ってくることに対して、「こういう形であれば実現できる」など、いくつか選択肢を示してあげて、そこから一緒にいろいろな方法を検討していくような進め方です。正直、かなり時間はかかりますね。手取り足取り、職員側でやってしまう時もあるので、学生たちの自立をもっとサポートしてあげなくては、とは思います。



――肥田さんが、ピアサポーターや入学準備プログラムをサポートする立場から今後やってみたいことはありますか?


肥田さん 入学準備プログラムについては、学生の方から「対象を早期合格者(総合型選抜 、学校推薦型選抜による合格者)だけでなく一般選抜合格者も対象にしてあげたい」と言われています。一般選抜は合格が確定する時期が遅いので、実現が難しいと感じていますが、学生企画を3月末にギリギリに実施するなど、何か方法はないかと考えています。オンライン開催だと他のグループの盛り上がりが見えないこともあり、当日はハラハラしながら見守っていましたが、参加者アンケートでは「友達ができてよかった」という声が多かったので、これからも前向きに進化させていきたいと思います。



――発想を変えたら、チームビルディング的なプログラムは、入学前にもやるけれど、入学後にオリエンテーションの期間中に希望者を募って行い、それを学部教育につなげるという方法もあるかもしれませんね。


肥田さん 入学者全員を対象に実施するのであれば、時期的にもそのあたりなのかなと思います。チームビルディングは、体験を通してこそ学ぶことができますので、入学前だけでなく、入学直後や在学期間中のポイントとなる時期に、各種のプログラムを配置したり、全学共通教育や学部教育と連携のとれた取り組みを実施することが効果的だと考えています。



――最後に、肥田さんが成城大学の職員になったきっかけをお聞きしてもいいですか?最初の職場は成城大学ですか?


肥田さん はい、新卒で成城大学に入職しました。実は私、文芸学部文化史学科の卒業生で、大学院も成城でした。社会科や歴史の教員免許を取って、学校現場で働くつもりだったのですが、教員として科目を教えるだけでなく、生徒の生活面まで全体をみたいと思うようになって。大学院修了前にたまたま成城の職員募集があったおかげで、運良く母校に勤められることになりました。ですから、何十年と同じ景色を見て成城に通っています(笑)



――すると、巡り巡って今のポジションは、自分の思い描いていた希望のキャリアに近い感じですね。


肥田さん そうですね。入職して最初の配属は入学センターで、その後、法人部門を経て、ようやく教育イノベーションセンターで学生対応ができるようになりました。ずっと学生の成長に関わりたいと思っていたので、今やっとかつての学びも生きているのかなぁと思います。

※入学準備プログラム「大学生活スタートアップセミナー」の様子は成城大学のホームページでもレポートされています。


●2019.02.28

https://www.seijo.ac.jp/news/jtmo42000000p2xj.html


●2020.02.25


●2021.03.18


※肩書・掲載内容は取材当時(2021年5月)のものです。

 

 成城大学のピアサポーターの成長過程のお話を聞いて思い起こしたのが、北森先生が良くおっしゃっていた「学生の主体性に依存する」と言う言葉です。

 「主体性がない」とか「主体的に動かない」とかのつぶやきをよく聞くのですが、本当にそうなのでしょうか。何かが主体性の発揮を邪魔しているだけではないのでしょうか。誰もが主体性を本当は発揮したがっている。それを刺激する一つのアプローチがチームビルディングなのではないか。そしてチームビルディングで大切なことは「チームメンバーの主体性に依存する」ということ。そうしてチームは自分たちで成長していくのかもしれないなぁ、と思うのです。

 肥田さんや前回お話を伺った佐々木さんのピアサポーターたちへの関わり方は、まさに「主体性に依存する」感じだなぁ、と思いました。

Comments


bottom of page