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学生の学力や気質の変化にいかに対応すればいいのか【東京経済大学】連載1-1

更新日:2021年6月11日

東京経済大学は、大倉財閥を一代で築いた大倉喜八郎によって1900年に創立された大倉商業学校を前身とする4学部1プログラム(経済、経営、コミュニケーション、現代法、キャリアデザインプログラム)を有する社会科学系総合大学です。同大学では昨今、「学生の学力や気質の変化にいかに対応にするか」という重要な課題に対応するべく議論が重ねられています。特に「初年次教育」の改革の必要性については何度も議論のテーブルにのぼってはいるものの、1学年1500人以上を擁する中規模校で新たな試みを導入するのは、容易なことではないようです。しかし「変われない・変わらない」と嘆いているだけでは、何も始まらない。そこで、学生委員長の加藤みどり先生(経営学部 教授)と学生課長の笹川克也さんをはじめ、危機意識を共有する教職員が集まって、大きな変化に繋がる小さなステップとして、学生の変化や成長を促す取り組みを始めています。今回の連載第1回目は、お二人に初年次教育における新たな試みの発端、学生への課題感について尋ねてみました。




――まずは加藤先生のプロフィールからお伺いしたいのですが、先生のご専門は?


加藤先生 炭化水素化学です。もともと技術職だったんです。



――え?理科系だったんですか?


加藤先生 以前は化学メーカーで有機化合物の研究や開発を担当していました。「技術をいかして、人が喜ぶような製品をつくって喜ばれたい」と考えて就職しましたが、会社では技術的に正しい意見が必ずしも通るわけではないし、優れた技術が採用されても製品のシェアが上がるわけでもない。「市場を動かす要素は技術以外にもありそうだ」とやっと気づき、それからマーケティングの基礎を学び始めました。



――それが経営学への扉を開くきっかけになったわけですね。


加藤先生 同じ研究室にいる筑波大学のビジネススクールに通っている先輩の話を聞き、私も通い始めたんです。それまで私が付き合いがあるのは製造業の方ばかりだったのですが、そこには外資の金融やコンサルなど多様な職種の方が学びにきていて。一気に視野が広がり、そのときの出会いは大きな財産になりました。そこから経営の勉強が面白くなり、博士課程に進んで博士号をとって、指導教官の紹介で助教授として大学教員になったのが2000年4月のことです。



――東京経済大学に着任されたのは2003年4月ですね。そして、私が加藤先生と出会ったのは2017年の『大学教育学会』でしたが、先生はいつごろからそういう場に行くようになったのですか?何かきっかけになるような出来事があったのでしょうか?


加藤先生 教育系の学会への参加は2011年からです。1年生の必修科目の「基礎経営学」を教えていたのですが、2007年ごろから学生の質の急激な変化に気づき、それまでわかってもらえていたことが伝わりづらいと感じるようになっていました。大学教員の採用は専門分野の研究業績で評価されることがほとんどなので、教育系の知識も知恵もあまりないまま、対症療法的に授業の方法を変更し、誰に何を相談したらいいかわからない状態が何年か続いていたんです



――1年の入門科目でつまずけば、2年、3年の専門課程で困ることになるでしょうから。影響は1年生にとどまりませんよね。


加藤先生 私はゼミ生にはゼミ論文を書かせていました。以前の学生は、先輩学生が書いた論文を参考にして論文を書いていたのですが、2000年代の終わり頃からその質の変化を感じました。しかし、私も論文の書き方を習ったこともないので、どうやって教えたら良いのかわからなくて。同じくゼミ論文を書かせていた先輩教員に相談して、学部でライティングのトライアル授業を3名の教員で共同で持つことになりました。我々が教え方を学ばねばという問題意識があり、学内の日本語教員に相談したところ、事例が多数議論されていると教育系学会を紹介されました。2つの学会にまず参加し、論理的な文章を書かせるための教え方などを中心に聞いていました。


そうこうするうちに、学内で教務系の役職に就き、学会では教学改革事例や、アクティブラーニングの取り入れ方など、各大学で多様な工夫をされている発表を多く拝聴するようになりました。そして、ラーニングバリューさんの自由研究発表を通じて、上級生を育てて初年次教育の場でピアサポートを行っている大学の事例を知り、興味を持ったのです

――その時の発表はO大学の事例発表(ファシリテーション研修を受けた先輩学生が新入生のチームビルディングプログラムのファシリテーターを務める事例)だったと思いますが、なぜ興味をもってくださったんですか?


加藤先生 当時、本学での初年次教育はスタディスキルズ系の考えが中心だったと思いますが、当時の学生委員長で同僚のT先生や学生課の笹川さんとは、後述する「学生支援会議」において、「初年次教育は、入学前教育と入学オリエンテーションと1年次ゼミなどを中心とした授業の三位一体で考えたいね」という話をしていました。スタディスキルも重要ですが、モチベーションがあってこそのスタディスキルだよねと。アクティブラーニングを授業に取り入れる事例は多々ありましたが、初年次ゼミやオリエンテーションに取り入れる事例を当時はあまり聞いたことがありませんでした。ラーニングバリューさんの発表は、その考え方や手法が私たちの方向性と近いと思わせるものでした。


「やっている学生がすごく成長する」と実施した大学のみなさんがおっしゃいます。本学の学生は潜在能力が高いので、是非導入したいと強く思いました。私の恩師も言っていましたが、人間が成長する瞬間を、ごく稀にですが見れるのは教員の特権なんですね。その猛烈に感動する体験をまたしたいという邪な思いもありました。



――なるほど、初年次教育への課題を感じていたという背景があったので、興味を持ってくださったんですね。その後、貴学でのチームビルディングプログラムの導入にあたって、最初に検討したのは生協の新入生歓迎イベントだったと記憶しています。初年次教育の一環としてでなく、どうしてそのイベントに導入にすることになったのか、経緯をお聞かせください。


加藤先生 私は100人クラスでのアクティブラーニングを想定して、2015、16年にラーニングアシスタントの育成先行事例について調査しており、2017年度のはじめに学内GPに応募して、そのための予算を確保していました。その直後、大学教育学会でラーニングバリューさんの話を聞いて、申請していた予算で御社に研修を頼んでみようと考えたのです。

経営学部では初年次教育として、17、8名のクラスでフレッシャーズセミナーを実施しており、トライアルの場となりえましたが、当時私は役職者でフレセミの担当から外れていました。また、学生がファシリテーションやチームビルディングの研修を受けた後、それを実践する場も必要ですが、新しい授業は1年前の申請が必要で、期限ギリギリのタイミングでした。そこで、協力してくださる先生方とも相談して、研修と実践の間隔も短く、学生もそれなりに集まりそうな場での実施を優先しようということになりました。「生協のウェルカムパーティで実施してみてはどうか」と教えてくれたのは、学生課長の笹川さんだったと思います。本学の生協専務理事が非常に理解があり、進取の気性を持つ方で、「ぜひやりましょう」と言ってくださいました。



――いきなり大規模に、例えば学部のプログラムなどに導入するのはハードルが高いので、スモールステップで実績をつくることにした、ということですね。初年次教育への課題は笹川さんも共有されていたようですが、職員としての立場から、どのように感じていたのでしょうか?



笹川さん 「学生支援会議」(年に数回、教学と学生支援に関する8つの委員会が集まっていろんなことを話し合う、情報共有のための連絡会議)で初年次教育の重要性についての議論が始まったのは2012年のことです。発端になったのは、文科省から1学期間で15週の授業実施を求められ、授業の日数を増やすためにオリエンテーション期間の短縮をせざるを得なくなったことです。このことは、学生支援会議で「オリエンテーション改革」という言葉で主要テーマとしてあがっていました。





――具体的にはどのようなことが話し合われていたのでしょうか?


笹川さん 本学は入学式のあとに2時間かけて、学びと履修についてのオリエンテーションを行いますが、履修登録の締切が早いため、クラス会や部活の先輩に聞いた話をもとに登録してしまうケースが目立つのです。そこで「オリエンテーションを改革する必要があるのではないか」という話から、次第に「初年次教育が重要」という議論に向かい、新入生同士の交流や大学生活への移行といった側面についても話し合われるようになりました。その結果、「1年生の休学退学をへらすには1学期が一番重要な時期」だということを再確認しました。



――何によってそれは明らかになったのですか?


笹川さん 2012年の議論をきっかけに、本学では2014年から休学・退学希望者全員を面談することになりました。学生課の担当者プラス学生相談室の心理カウンセラーも同席して話を聞いたところ、「休学・退学希望を提出した時点で遅すぎる」ということがわかりました。実際、面談の結果、退学を思い留まらせることができるのは、非常に少ないです。学生は「違う進路が見つかった」と言うのですが、友達をつくるタイミングを失ったままであるとか、きっかけは「入ってきた時から夏休みまでの間」にあるんですよね。



――新入生同士の交流や大学生活への移行については、何か手立てはあったのでしょうか?


笹川さん 2017年に対外的に大学のロードマップを出す際に、「学生による学生のためのピアサポート」という項目を入れてもらいました。これは、加藤先生がラーニングバリューさんに学生ファシリテーターの育成について相談されたのと同じくらいのタイミングのことです。



――笹川さんはなぜ「学生による学生のためのピアサポート」を考えるようになったのですか?


笹川さん 本学では入学オリエンテーション期間に新入生歓迎実行委員会(学生団体)が歓迎行事等を実施しています。「学生が学生を受け入れる」という伝統はあったのですが、2012年度ごろから行事中に責任を全うできず運営が困難になる局面があったのです。学生課では、学生の自治活動を尊重したうえで、学生が改革するのを手伝うようになりました。2015年度には新入生歓迎実行委員会幹部予定者と、新入生歓迎行事の先進大学である松山大学を訪問し、学生主体で運営する方法や精神について学ぶ機会も設けました。

また、それまでは、新入生歓迎実行委員会の仕事の比重が各部やサークルの勧誘に偏っており、歓迎のためのクラス会などはなおざりにされていたことも問題であると認識できました。そこで、2016年度の新入生歓迎実行委員会幹部は、「勧誘から歓迎へ」というスローガンを掲げて活動に取り組んだのです



――その改革は順調に進んだのでしょうか?


笹川さん それ以降は、新入生歓迎実行委員会の運営も安定しています。「学生による学生のためのピアサポート」は、現在、実験的段階から組織化、拡大化に入ったばかりの状況にあります。こうした取り組みを見ても、私は大学では、学生が学生を育てるような仕組みや、先輩が後輩を引き上げるネットワークこそが大事じゃないかなと感じるのです。そのような状況の中で、加藤先生からファシリテーター研修の話を聞き、私もラーニングバリューさんとの打ち合わせに参加することになったのです。


※肩書・掲載内容は取材当時(2021年2月)のものです。

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