友人関係やコミュニケーションへの不安を払拭し、安心して学生生活をスタートさせてほしい。そんな思いから、成城大学では2019年度入学者から、チームビルディングプログラムを活用しています。先輩学生がファシリテーターを務める入学前教育(入学準備プログラム)は学部・学科の枠を越えた新入生の交流の場となっています。この取り組みをリードする教育イノベーションセンター長・杉本義行先生は、成長する学生の姿に「誰と学ぶかは大事」と確信を強めているようです。主体的に学ぶ、仲間と学ぶことの意味や意義とは何か?他大学の事例も交えながら、アクティブ・ラーニングのあり方について一緒に考えてみました。
――杉本先生は入学準備プログラム、スタートアップセミナーの今後についてどのように考えておられるのでしょうか?
杉本先生 もっと対象を広げていきたいのですが、学部の意向もありますし、入学定員管理を厳格に行うことから、合格者を段階的に出すようにしていることもあり、実施時期を考えるとすべての入学者に行うのは難しそうです。入学式直前に合格をもらった人だけ受けられないと不公平になるので、どうしても早期に入学が決まる入学経路の新入生対象になってしまいます。ただ、その機会が次年度のピアサポーターのリクルーティングにつながることもあるので、もっと広がればとも思います。
――教育イノベーションセンターとして取り組みたいことはありますか?
杉本先生 高大接続に関することでしょうか。少し前までは、高大接続というと入試や留学などのテーマがメインでしたが、2017年にセンター設立を記念したシンポジウムを開催した際には「探究学習」をテーマに取り上げました。大学と高校はまさに「研究」というテーマで接続できると考えています。個人的にも高校側からそういうニーズをいただいていますし、SDGsなどをキーワードに探究学習を広げている高校もあります。そこに教員だけでなく、学生も関わっていくことはできるでしょうし、お互いにメリットもあるのではないかと思っています。
――今後、そういうことが実現できたら、先ほど(前回)話題にのぼった「議論」や「対話」の場づくりにも通じる取り組みになりそうですね。
杉本先生 そうですね。それから、これはセンターというより、私個人の考えなのですが、共通教育の枠組みの中にコミュニケーションやワークショップのようなものを取り入れてみてはどうかと思っているんです。昨年、そういう意見を出したところ抵抗があったので、私と他の方の考え方にはギャップがあるようですが。そういう科目はどうなんでしょうか?他大学の事例で何かご存知ではないですか?
――コミュニケーションとワークショップに限った科目ではないのですが、1学年400人くらいの小規模な大学における初年次教育の必修科目の事例があります(特集3校目「神戸常盤大学編参照」)。
2学部5学科の1年生全員をシャッフルして1クラス35人くらいに振り分け、5学科の教員約30名が2人1組で授業を担当して、ディベートやプレゼンテーション、ロジカルシンキング、レポートの書き方などなどのアカデミックスキルを学ぶというものです。授業はグループワーク形式で行うため、グループとしての機能を促進し、学生のモチベーションを喚起するために、冒頭4週間にチームビルディングプログラムを取り入れてカリキュラムを構成しているんです。スタートから4年になりますが、年々授業評価が上がって、今は平均で5点満点中4.7点をマークしています。2コマ連続の180分の授業ですが、最初の4週間で先生方がチームビルディングを学べるようになっているし、学生さんにとっては、チームビルディングが進んで有益な議論ができたり、違う学科の人と学べて友達ができたりすることが満足度につながっているようです。
杉本先生がおっしゃっているコミュニケーションやワークショップというのも、活動の中身はいわゆるアクティブ・ラーニングだと思うのですが、他の先生方は「どのように進めていいのかわからない」と言うことが抵抗感になっているのかもしれませんね。
杉本先生 これこそ学習観かもしれませんが、これからは一人で学ぶより「誰と学ぶか」が一番大事なのではないでしょうか。チームで学ぶとか、そのために必要なスキルだとか、そういうものを全学共通の初年次教育でできたら意味があると思うんです。
――知識を教える前に、まずは学び方を学んでもらう、ということですよね。先ほどご紹介した大学では、医療系学部があって、数学や物理などのリメディアルが課題となっていました。そこに向かってもらうための仕掛けとして、ご紹介した科目の後期ではSPIテストをやっているんです。SPIの本をチームで手分けして学習し、答え合わせをして教え合い、テストの成績を競わせる。リメディアルを個人任せにすると、伸びる人は伸びますが、ほとんどが伸びず、下手するとやらない学生も出てきますが、このやり方だと面白いことにどのグループも成績が上がるんです。
杉本先生 チームで競わせるという方法はいいですね。メンバー間でサポートしなきゃ、という雰囲気が生まれてきますし。
――前期ではコミュニケーション力が問われる場面が多く、後期では知識や理解力が求められる場面が増える。面白いことに、前期で活躍できなかった、コミュニケーションは苦手だけど学力は高いという学生が、後期になるとがぜん活躍し始めるというシーンも見られるんです。それぞれの持ち味をどう活かせばいいかを学生が自分たちで考えられるようになると、学びの場が非常にうまく回っていくようになるんです。
杉本先生 まさに、「誰と学ぶか」ですよね。
――杉本先生の「誰と学ぶかが大事」という考え方はご自身の体験に基づくものなのですか?
杉本先生 私は基本的には「一人で学ぶ派」だったんです。ですが、学習科学や教育工学といったものを学ぶにつれて、遅ればせながら学習観や知識についての考え方が変わりまして。これまでは学生がしゃべらない授業を結構やっていたんですが、それじゃまずいんじゃないかということに、本当に最近になって気がつきました。我々のように大学という狭い世界での仕事であっても、いまや一人だけで何かをするということはありえません。コミュニケーションをとりながら、どうやって物事を進めていくかというのは重要で、その方法を学ぶというのも必要なのではないかと思うのです。
――「一人で学ぶ派」からの転向のきっかけになった、エポックメイキング的な出来事があったんですか?
杉本先生 5、6年ほど前に、はこだて未来大学の美馬のゆり先生と東京大学の山内祐平先生の著書『「未来の学び」をデザインする』(東京大学出版会、2005年)という本を読んだことでしょうか。学んだ知識を自らのさまざまな体験などと結びつけながら、その知識を自分の中で再構成するという社会構成主義的な考え方を学びました。自分はあまりそういう考え方をしてこなかったので、なるほどと思いました。
――アクティブ・ラーニングを試行錯誤する中で、そういう本を読んでご自身の経験と結びついたのでしょうか?
杉本先生 そうですね。アクティブ・ラーニングというのは学習の態度やテクニックの一つの手法であって、一番大切なのは考え方なんですよね。私は自然科学系、理系の人間なんですが、ともすると「真実は一つ」なんていう大変な勘違いをしがちな気がします。何かするときに「誰がやっても世界中同じ」という発想は大間違いだ、ということを学んだというわけです(笑)
成城大学さんでは、ピアサポーターの学生が、入学前教育としてのチームビルディングプログラムに、最初は参加者として高校生と一緒に参加され、翌年には学生ファシリテーターとして場を運営する立場になられました。そして3年目には、思いがけないコロナ禍の元、どなたも経験したことのないオンラインチームビルディングの場を、ファシリテートされるようになったのです。この「状況に合わせて役割が変わっていき、その変化する状況に立ち向かう中で、個々やチームが成長していく」さまが、まさにチームビルディングだなぁ、と感じました。
では、こういう学生集団を育てるにはどうしたらいいのでしょうか。次のインタビューでは、学生指導の最前線でピアサポーター組織を立ち上げ、育成に関わってこられた職員の方々にお話を伺っていきたいと思います。
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