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【神戸常盤大学】連載2-3/初年次教育改革で学生の学習意欲と教員の教授力は高まるか?

更新日:2020年4月28日

2017年度に始まった《まなぶる▶ときわびと》(以下、まなぶる)は全学科の学生が混成されたクラスにおいて、グループワーク形式で行われます。授業は全学科の教員が2人ペアとなって担当。教員同士が専門の壁を取り払い、協働体制で授業に臨んでいます。学生の学びへのモチベーションUPだけでなく、教員のファシリテーション力UPをもねらいとするこのプログラムについて、科目責任者である光成研一郎先生(教育学部 こども教育学科長 教授)に詳しく話を聞きました。




――《まなぶる》を担当する組織の構造についても聞かせてください。授業では20人の先生が2人1組になって、35~36人のクラスを担当していますが、どういう発想からあの協働体制が生まれたのでしょうか?


光成先生 学生のパフォーマンスを評価しなければならない科目なので、30~40人のクラスを一人でみることになると評価がぶれるおそれがあると思ったからです。そこで、初年度からルーブリック評価をつくったのですが、きっちり評価するために学生のグループワークを観察するには、1人の担当が20人を超えるとちょっとしんどいという話が出て。「学生のパフォーマンスを見て評価するなら教員1人で学生20人を見るのがMAXじゃないか」という話になって、1クラス2人体制になったと記憶しています。


うちは小さい大学なので、大きな大学と差別化できる唯一のポイントが「学生を丁寧に見ることができる」ということ。教員一人あたりの学生数が少なく、スモールカレッジならではのテーラーメイド教育を実践できる体制を考えて、いまの形ができあがりました。



――少人数教育を担保しようとするとたくさんの教員が必要になる。しかも、各学科から出してほしいと要望を出すと、「初年次教育に教員をとられて困る」という学科もあるのでは?


光成先生 学長が「教学改革を進めよう」と旗を振っていたので、学長の口から各学科に言って頂いたんです。おかげで、仕方ないな、と思って協力してくれています(笑)

学科側には「この先生が欲しい」とまでは要望を出しませんが、できたら若手で勉強したいと思っている先生や、さらなる教育改善を図ってほしい先生に参加してもらえるよう頼んでいます。ベテランの教授になると他の授業の兼ね合いもありますから、基本的には講師と助教でやっています。今は新任の先生が選ばれて参加するような感じでしょうか。


また20人のうち2人は職員にも入ってもらっています。成績評価は教員にお願いしていますが、ボランティアや地域活動のパイプになっている職員に、どんな学生がいるのか見てもらうためにも参加してもらっています。学生の雰囲気もわかってもらえるし、ボランティアや地域活動の際に声をかける学生を見つけてもらうこともできるので。


うちは正課、準正課(国家試験対策、キャリアガイダンスなどのカリキュラム外の活動)、正課外(地域活動やボランティア、部活など)とも、教員が可能な限り把握しながら学生を育てていこうというポリシーがあります。準正課で学生に関わる事務局の人に、彼らの雰囲気を見てもらうのは効果的だと考え、教職協働を実現しています。


他大学の人からは、「学科の違う教員を集めた科目なんて、そんなのうまくいくんですか」と言われますけどね。



――うまくいくように、どのような工夫をされているんでしょうか?


光成先生 《まなぶる》担当教員20人のうち15人は前年から継続しているメンバーで、年々スキルがあがっているし、新しく担当になった先生は、必ず《まなぶる》のベテランの先生とペアになるようにしているので、教室でじたばたすることはありません。でも、毎年教育内容の改善を図っているので、新しい情報が必ずあるんです。昨年は新しい情報を提供するのが授業間際になっていて、教員が内容をじっくり読み込む時間が無いのが課題になっていました。それで今年は教育コンテンツチームをつくって、年間のテキストを事前に制作してもらったんです。それを3月の時点で配って、各自で読み込んでもらって授業に臨めるようになったのですが、それはかなり進歩したことかなと思います。



――その日のねらいや内容をしっかり理解して、自分がどう学生に関わっていくかを事前シミュレーションできていたら、授業が充実しますよね。


光成先生 3年目になってようやく形になってきました。最初はプログラムを考案したメンバーが、授業に必要なツールや資料の準備をすべて一人で担っていて、他の先生はお客様状態で「来てやった」という感じで。そうなると準備する人は疲弊しますよね。


今年からは、教育コンテンツチームが授業の前の週には教材なども学内のラーニングマネジメントシステムにあげてくれるようになって、各先生方に事前に見て準備してもらえる体制が整ってきました。


さらに、先生方には授業の30分前に集まってもらってその日やる内容を共有して、授業終了後にも集まって振り返りをしています。会議などで参加できない先生もいますが、毎回80%以上の先生は来てくれています。内面は面倒くさいと思っているかもしれませんが、不安を解消できるし、授業をちゃんと進行できなければ学生に悪いと思うから集まってくれているのかもしれません。いずれにせよ、こんなふうに皆さんが集まってくれるなんて、この大学ならでは、かもしれませんね。





――先生方はどのようなモチベーションで《まなぶる》に取り組んでいるんでしょう?


光成先生 専門がバラバラの教員が集まって授業を担当するので、なぜ自分の専門外のことをさせられるのと感じたり、熱意にも差があるでしょう。でも、専門は違えども教員には、学生とのコミュニケーションや授業のファシリテーション力というものは必要だろうと考えています。それでラーニングバリューさんに来てもらって、ファシリテーションの仕方を教員全体で勉強しながら、「自分が何かを教えるのではなく、あくまで学生の学びをサポートするという立ち位置で取り組もう」ということでやってもらっているんです。


自分の授業の未熟さや、どうしたらうまくいくんだろうという悩みを感じている若手に、他の先生とペアで授業に入ってもらえば、お互いのいいところを盗めるし、勉強になる部分はあるでしょう。専門の異なる先生がペアになって一つのテーマを教えることも、専門職に必要な資質や能力を養成することを軸においているので問題ありませんし。どこの大学も公開授業をやっているでしょうが、これ以上の公開授業はないのではないかと思っています。



――今年は新しい先生が5名加わったということですが、《まなぶる》には教えることに慣れていない若手教員にとってのFD的な意味合いも大きいようですね。


光成先生 文科省による大学を教員だけの組織ではなくしようとする流れがあり、いまはどの大学でも実務家教員が何割いるかが重視されるようになっています。一方で、実務家教員がしっかりした教授技法を学んでいる人でない場合は、その人に研修をしなさいという指導も行われています。そこで《まなぶる》がその教育研修の代替機能を果たしているかなとは考えているんです。新しく入ってきた先生には、「自分の教授技法は未熟だ」と認識してもらって、これを経験するとプラスになると思っていただきたいと思っています。教員は将来的には異動することもありますが、「神戸常盤大学では《まなぶる》を経験したので勉強になった」と思ってもらえるような授業構成にしたいとは思っています。



――私も2018年度の《まなぶる》が終わった後の振り返り会に参加させていただき、先生方一人ひとりの感想をお伺いしましたが、「教員人生でこんな貴重な機会は…」などとおっしゃる先生もいらっしゃり、単に教授法を学ぶ以上の体験もされたんだなぁ、と感じました。


光成先生 そういう先生もおられましたね。他にも「学科の都合で担当を離れたけれど、もっとやりたかった。これをやっておけば勉強になったと思う」と言ってくれた先生もおられましたね。



――そもそもは学生のために始めた初年次教育改革だけど、教員の教授技法を向上させることにも大きな意味合いがあったということですね。


光成先生 そうですね。しかも先生同士が顔の見える関係になった。僕でもこれまで他学科の先生と付き合うことがなかったので、表面上しか知らなかったことが、「意外とこういうキャラクターなんだな」とか「こういうことがお得意なんだ」とか、長所が見えてきたというのは副次的なメリットですね。



――これからの神戸常盤大学をつくっていくうえで、仲間となってくれる先生方の顔が見えてきたと言うことかもしれませんね。


光成先生 ヨコのつながりは確実にできたと思いますね。《まなぶる》のねらいの一つに、教員のFDにしたいという思いもあったんです。若い先生たちに、《まなぶる》を「やらされた」ではなく「やってよかった」と思われる科目にしたくて。だから今《まなぶる》担当の若い先生たちが一緒に飲みに行ったり、学科の枠を越えて授業の話をするようになったり、と言う姿を見るのは嬉しいですし、FDの効果となって現れているのを感じます。



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  • 全学必修の初年次教育を学科混成で実施

  • チームビルディングを活用した授業設計で初年次生の学びのモチベーションを喚起

  • 授業自体がFD。学科混成の20名の教員のファシリテーション力をUP

  • 毎年数名の教員が入れ替わることで、教員や授業内容の新陳代謝を促進

「まなぶる▶ときわびと」の特徴を挙げると、上記のようなことになろうかと思います。その最初の形を考案されたのはこども教育学科にいらした若手の先生ですが、それを現場でリードし推進して来られたのが光成先生です。

 光成先生はとても明るい方で、よく冗談を仰って笑いを取ったりされるのですが、こと教育に関することでは妥協はありません。

学生に対しては、国家資格を取らせること以上に、社会に出た後に役に立つ人間づくりを大切にしておられ、そのために常に学生の主体性発露を期待されていらっしゃいます。

 一方、先生方に対しては、科目責任者として「まなぶる▶ときわびと」を通じて先生方がファシリテーションの力を身に付けることを期待されていらっしゃいます。そのために、時に先生方と侃々諤々の議論もされていらっしゃいます。また、細かいところにも目配りされ、常にスピード感を大切に物事を進めておられます。全体のコンセンサスを大切にしながらも、ご自身の意思決定が必要な場面では、あいまいにせず決断されます。

20名もの異分野の教員のが一つになって進む「まなぶる▶ときわびと」のような科目には、制度設計以上に光成先生のような存在がとても大切になる、と思いました。

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