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【神戸常盤大学】連載2-2/初年次教育改革で学生の学習意欲と教員の教授力は高まるか?

更新日:2020年4月28日

2017年度に始まった《まなぶる▶ときわびと》(以下、まなぶる)。全学科の学生が混ざり合ってグループワークに取り組みながら、コミュニケーションやチームビルディングを体験しています。臨床検査技師、看護師、歯科衛生士、保育士・幼稚園教諭などの国家資格取得を目指すために入学してきた学生に、資格教育よりも先に、なぜこのような学びの場を提供するのか?神戸常盤大学が考える、医療と教育の専門職業人のあるべき姿とは何か?科目責任者である光成研一郎先生(教育学部 こども教育学科長 教授)に聞いてみました。




――《まなぶる》のプログラム構築については、2年目から私も参加させていただいていますが、プログラムの最初の5回のねらいを「チームビルディング」と設定して、再構築されました。改めてその理由について聞かせていただいてもいいでしょうか。


光成先生 うちの大学が養成する専門職は、いずれもコミュニケーションが大事な職業です。それで初年次教育ではコミュニケーションを軸に置きたいと思ったからです。チームビルディングでは、自分と他者のコミュニケーションの取り方の特徴や価値観の違いに気づくチャンスがたくさん用意されていますよね。


一方で「(初年次教育で扱うものは)すぐに役立つものがいい」という先生もいまして。僕らはすぐに役に立つものほどすぐに古くなると思うのですが・・・ただ、他学科の先生の要望もあるので、レポートの書き方やプレゼンの仕方とか、一般の大学で行われるような初年次教育の内容も押さえつつ組み立てています。



――確かに、《まなぶる》にはレポート作成、プレゼンテーション、ディベートといった学習に必要なスキルも統合的に学べるようになっている、よく練られたプログラムだと感じます。


光成先生 2017年度にスタートして、先生たちとPDCAを回しながら試行錯誤して改善を重ねています。教員みんなが授業をやりやすくするにはどうしたらいいか。みんなが納得できるプログラムにしていくために、課題として意見がでた箇所は変えるようにしています。ですから、専門職に絶対欠かせないコミュニケーション能力に加えて、プレゼンテーションやディベート、PBLといった要素も包含している面はあるかもしれませんね。



《まなぶる》では学科混成の5~6人でグループワークを行う。教員も2人ペアでグループワークのプロセスを見守る

――チームビルディング、コミュニケーション、学習スキルの習得。それ以外にも、《まなぶる》には「学びへの動機づけ」というねらいもあると思いますが。


光成先生 うちの大学が比較的授業をやりやすいのは、教員に「そんなことでは国家資格に通らないよ、資格が取れないよ」という決め台詞があるから。国家試験に合格させることが学生の希望を叶えることでもあるんですが、「資格を取る」ことだけでは、逆に4年間もモチベーションを保ちにくいんじゃないかとも思っています。


例えば、保育の学生が実習先でキツいことを言われると「あそこはいやだ、私は保育士に向いていない」と凹んでしまう。いくら「あそこはワンオブゼムだ」といっても、学生は一つの出来事で判断してしまうことがある。短大は2年間なので、勢いで卒業させられるけれど、4大では3年くらいから自分の適性について考えだすコがいますね。「これが私の天職!」と思えて良いパターンもあるでしょうけど、僕は「自分に向いているのか」と真剣に悩む人のほうが向いていると思うんです。人の痛みに敏感なコのほうが、実習などで凹むみたいです。でも、そういうコが1,2年のうちに、《まなぶる》のような場で、同じ職業を目指す人だけでなく、他の専門職を目指す学生と関わり、彼らの悩みに触れる機会があれば、自分の専門の素晴らしさや意義も考えられるようになるんじゃないかと期待しています。



――ねらい通りの効果は得られているのでしょうか?


光成先生 他学科の学生と触れあったり、知りあったりできるのは良いようです。この科目では何度もグループワークをして、他学科の人と濃い時間を過ごすので、学科で固定された人間関係だけなく、学科を越えた関係を築く役割も果たしているんだなと感じます。学科内では相談しにくいことも、他学科の人となら案外気楽に話せることもあるようですし。

全学的な活性化は進んだような気がしますね。自治会活動にもいい影響が出ているのではないでしょうか。



――初年次に《まなぶる》を体験して進級してきた2年生の態度や考え方に、これまでの学生との違いを感じることはありますか?


光成先生 グループワークはスムーズに進められますし、他の先生からも「PBLのようなことをさせても、スライドを上手につくるし、発表も上手」と言われることはあります。新入生の入学直後に行う学科オリエンテーションでは、先輩が後輩に学科の学びや就職を説明するのですが、それがうまくなったと褒められていました。うちの学科の学生はプレゼンテーションを先生に絶賛されて、オープンキャンパスの学科紹介を担当することになりました。高校生にとっては、自分の言葉でしゃべる先輩の姿を見て、自分もああいうふうになれるんじゃないかというロールモデルになるだろうし、頑張る学生にはいろんなチャンスを用意して、経験をしてもらえばどんどん伸びていくんじゃないかと思います。そういう面でも《まなぶる》は学生の学びのエンジンの役割になっているんじゃないでしょうか。



――《まなぶる》の今後の展望について、考えていることはありますか?


光成先生 選択科目の《まなぶるⅢ》では、ファシリテーションに興味を持つ学生を鍛えて、SA(スチューデントアシスタント)として授業に入るシステムをつくりたいと考えています。ただし、金曜3,4限に行われる《まなぶる》に上級生が入れるように時間割の枠を取るのは厳しいんですよね。まずは教育学部の学生対象に試行的に参加してもらって、ゆくゆくはラーニングバリューさんが『自己の探求』のプログラムで行っているような、上級生が下級生をリードしていくような形になれば理想ですね。



―《まなぶる》を発展させるには、「目に見える成果」を出すことも求められそうです。


光成先生 1年前期の《まなぶるⅠ》は2コマ×15回の30コマ。1年後期の《まなぶるⅡ》は2コマ×8回の全15コマ。1年生は《まなぶる》の授業を全45コマ受けることになるんです。確かに専門職養成大学のカリキュラムで、よくこれだけの時間を確保できているなと思います。


これに対して批判もあるんです。これまでは、大学での学びを教えるために入学直後から「こんなことをしないと国家試験に受からないわよ!」と詰め込み型の教育でムチをふっていたのに、《まなぶる》では学生の主体性に任せている面もあるので、ちょっとのんびりしていると言われることもあります。でも、ムチをふったところでお腹いっぱいなら食べられませんし、学生が自分で運動して食べるくらいにならないと、本当の大学教育とは言えない。このコたちが学び方を学んで、自分たちで主体的に国家試験に向けての勉強のエンジンをかけられるようになってくれたらと期待しています。



――国家試験の勉強が「外発的動機」によるものか「内発的動機」によるものか、ということですね。光成先生は、学生に自分で自分をコントロールする力を身につけることを期待しているんですよね。


光成先生 そうなんです。国家試験合格だけがゴールでないし、詰め込み教育で学生を疲弊させてしまうよりも、余力を残した状態で社会に送り出したいんです。



――医療も教育も、就職してからもっと勉強しないといけない職種ですからね。自ら学んだり振り返ったりすることを、大学の早いうちから習慣づけられるのは意義があるでしょうね。


光成先生 保育や教育の世界も看護の世界も、機械ができることは機械がやるようになるだろうし、10年後は劇的に変わっているでしょう。人間が雇われる意味を考えると、主体的で能動的な人間でないと必要とされないでしょうし、「生涯学習力」といわれるものが問われるはずです。

就職先との懇談会もあるので、《まなぶる》を体験した学生が卒業後にどう変わっているのかアンケートをとったり、離職率もはかってみたりしたいですね。それでいい変化が生まれていたらうれしいんですけど。



――これからの卒業生の姿を、光成先生はどのようにイメージしていますか?


光成先生 なにかあったときにぱっと手を出せる、危機対応実践力を発揮できるようになって欲しいですね。これって当たり前のことなんですけど、意外とできないんです。倒れている人がいたら声をかけるとか救急車を呼ぶといった行動に移して欲しいし、地域社会に貢献するという意識も持っていて欲しい。実際に医療や教育の仕事というのはそういう職業ばかりですが、職業人としてだけでなく、一市民としても、なにかあったときに自分が出ていって社会のために何かできることないかと目を向けられるような人材になって欲しいですね。



――《まなぶる》のようなプログラムを経験した学生の成長を測ってみるのは面白そうですね。それは研究者としての光成先生の興味深い研修対象にもなっているのでしょうか?


光成先生 僕の専門とする教育学以外でも、検査技師の養成とか歯科衛生士の養成とか、各専門の学会で“養成”をテーマに発表することができますよね。歯の研究していた先生が視点を変えて、歯科衛生士の養成の研究をするといった具合に。看護師も臨床検査技師も人材育成は絶対に必要ですから、専門職になったときの教育的視点というのも大事ですよね。《まなぶる》を材料に、専門職の教育研究に広がる可能性もあるかもしれませんね。





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