神戸常盤大学で、全学科横断で行う初年次の基盤教育プログラム《まなぶる▶ときわびと》(以下、まなぶる)を担当されている、こども教育学科 講師 大城 亜水先生。グループワークで “ふりかえりとわかちあい”を重視することで、学生の気づきが深まるだけでなく、自身の教授法についての気づきも得られていらっしゃるようです。学科の枠を越えてさまざまな学生や教職員と協働することによって、自身の変化をどのように感じ、これからのキャリアをどのように考えるようになったのか、聞かせていただきました。
――この大学に着任して、学科混成で行う初年次教育を受け持つよう言われたとき、大城先生はどんなふうに受け止めたんですか?
大城先生 不安だらけでした。ですが、そのときにペアを組んだ光成先生が私の不安な気持ちを瞬時に分かってくださって、常に気にかけて頂いたおかげで不安が取れたのは確かです。光成先生をはじめ、他の学科の先生方にも引き合わせていただくことができて、看護学科の中田 康夫先生や、口腔保健学科の伴仲 謙欣先生など、今の教材作成チームのメンバーとも出会うことができました。
――《まなぶる》で学生が学科の枠を越えて知り合えるのと同様に、先生も学科を越えて知り合えているということですよね。前任校では自分で工夫して授業をつくっていたとおっしゃっていましたが、こうして教授法を学べる場に参加してみて感じることはありますか?
大城先生 この大学に来て一番びっくりしたのは、“協働”が多いということ。教員と職員も協働しますし、教員同士のコミュニケーションもすごく密接で。そこは本当に驚きました。私が困っていたら敏感に察知して助けてくださるし、だから何かあればすぐに誰かに相談できるし、一人で困るということがまずありません。前の職場では相談に乗ってくださる女性の先輩教員はいたものの、「基本的に教員は何でも一人でやってください」ということになっていて、何事も一人で黙々とやることが多かったので。そのあたりはずいぶん違いますね。
――大城先生が「困る」のは、具体的にはどんな場面ですか?
大城先生 経済学部出身なので保育者養成にはなじみがなくて…。学生との距離感も、専門用語も、いつごろ実習があるのかといったことも分からなくて。授業と実習が重なったときの学生の対処はどうしたらいいかなど、一から手ほどきを受けないといけなかったんです。
――教員同士の関係や物事の考え方が経済学とは違う文化のところにやってきて、授業を教えるスタンスや、自分の学問へのスタンスが変わるという経験はありましたか?
大城先生 レジュメの作り方や資料の作り方も全然違っていて、他の先生のものを見せて頂いて、取り入れられるところは取り入れようとはしています。“ふりかえり、わかちあい”も前の職場では知らなかったことなので勉強になりました。
――“ふりかえり、わかちあい”の視点が生まれたことによる授業の変化はありますか?
大城先生 “ふりかえり、わかちあい”をしていなかったときは、「学生はこう思っているだろう」という先入観で講義をしていました。私は「こうしたら楽しいだろう」と思ってやっていたことなのに、“ふりかえり、わかちあい”をしてみると、そんなに楽しんでいないことがわかって…別のことをしようと思うようになりました。
――学生の気づきが深まるだけでなく、先生が自分の教授法についての気づきも得られたということですね。
ところで、《まなぶる》2017年に始まって今年で3年目。プログラムの内容や実施環境は毎年リニュアルしていますが、初年度から参加している大城先生から見て、どう改善されていると感じますか?
大城先生 常盤大生に馴染みやすいチームビルディングの形を考えながら改善されていると思います。今年はさらに“ロジカルコミュニケーション”もテーマに追加されました。チームベースドラーニングを主体としながらロジカルな考え方を身につけようとするもので、専門職としての人間的な深みを増すことをねらいとしてきっちり設計された授業だなと思います。
――今年の《まなぶる》は5回目まではチームビルディングをねらいに、それ以降の回をロジカルシンキングやクリティカルシンキングといったアカデミックスキルの習得をねらいに再構築されています。ロジカルコミュニケーションを内容に追加するアイデアはどこから生まれたものですか?
大城先生 中田先生や伴仲先生からの提案でした。学生たちには何のために《まなぶる》があるのか伝えてきたつもりですが、やっぱりなかなか伝わっていなくて…。「先生、アレは何だったの?」と思われていたものもあったようです。ちゃんとカリキュラムとして打ち出していなかったせいかもしれないという反省もあって、前期30コマ、後期15コマにわたるワークを何のために行うのかということを明確に出すために、ねらいの整理をすることから始まったんですね。
光成先生をはじめとする教材作成チーム※のメンバーで話し合いをしましたが、ラーニングバリューさんがファシリテーター役を務めてくださって「どうしてそういうふうに感じるんですか」と問いかけてくださるので、先生たちも素直に意見を言うことができ、改善策に結びつけられたんだと思います。
※補足:教材作成チームとは、《まなぶる》の授業で配布するプリントや、授業を進行するにあたって必要な情報をまとめた冊子(教科書)をつくるチーム。授業に再現性を持たせるために、授業のねらい、ワークの説明、ファシリテーションのポイントなどの情報を全教員で共有できるツールを制作している。
――大城先生が学科で担当している「家庭支援論」は70人くらいの講義とのことですが、その授業には何か《まなぶる》のエッセンスを取り入れていますか?
大城先生 アイスブレイクを取り入れて講義に集中してもらうようにはしていますが、どうしても講義の大半は話すしかありません。それでも一方的に話すだけでなく、「私が話したことに対して学生はどう思ったか」を重視したくて。例えば、DVDを見せるときも、ただ見せるだけでなく、どう思ったのかを書いてもらう。書いてもらうだけでなく、どう思ったかを数人に発言してもらう、というキャッチボールにつなげています。なるべく“ふりかえりとわかちあい”をするように意識しています。
出席カードも活用して、コメント欄に授業の感想を書いてもらって回収しています。「先生に与えられた課題に対してこんなことを気づけた」とか「毎回出席カードを提出することで、最終試験で作成するレポートの内容につなげることができた」とか書いてくれるので、学生にとってもメリットがあるのかなと思っています。
――回収したカードは学生に返却するのですか?
大城先生 返却まではしませんが、次の授業の時に「前回の授業の出席カードにこんなことを書いてくれていて嬉しかった」などの感想は伝えるようにしています。
――先生からのコメントが返ってくると学生は嬉しいでしょうね。
大城先生 先生から課題を投げっぱなしにされるのが学生は一番イヤみたいですね。大人数のクラスでも双方向を意識するようになったのは、《まなぶる》がきっかけでした。
――自分の研究テーマの探究だけでなく、教えることの面白さの探求も、大城先生のキャリアの中では大切にしたいポイントなのでしょうか?
大城先生 「大学が面白くない」と学生に言われるのがイヤなんです。そう思うようになったのは、前の職場で出会ったある2人の学生とのことがきっかけなのですが。
彼らが全然大学に来ないので、なぜ?と聞くと、「授業が面白くない」と言うんです。面白くない理由を尋ねると、「先生がずっとしゃべってるだけだから」と。よくよく聞けば、大学生活で楽しいことも見つけられてないと言うんです。楽しいことを見つけて欲しくて、「基礎演習」や「イノベーティブワークショップ」など私が受け持つ授業に誘ったら、大学にちゃんと来るようになって。それでやる気も湧いてきたようで、面白い就職先を見つけてちゃんと4年で卒業していきました。そんなこともあって、学生を授業につなぎとめるのは、“学ぶ楽しさ”というのがキーワードなのではないかなと思っています。
――《まなぶる》が学生に、そして大城先生のキャリアにどんな変化をもたらすことを期待していますか?
大城先生 この大学の学生はみんな将来の夢を描いて入学します。まずは一人ひとりが希望する職種に就けることを願っていますが、社会に出るまでのプロセスの中でも楽しさを見出してくれたらいいなと思っています。
今後の私の活動については、ゼミ生を念頭においていますが、彼らと一緒に研究して何らかの成果を出せたらいいなと思っています。
神戸常盤大学は日頃から教員同士に密接なコミュニケーションがあって、学生との距離も近い大学です。《まなぶる》でも “協働”をキーワードにチームビルディングを大事にしていますし、教材作成チームの伴仲先生とタッグを組んで「地域との協働A」という授業も担当するようになりました。誰かと協働するとか、物事を一緒にやるというのが自分の中で定着しつつあるので、次は学生と一緒に何かを作りたいなと考えているんです。
――伴仲先生とタッグを組んで担当されている授業はどんな内容のものですか?
大城先生 「地域との協働A」はボランティア活動の入門編のような授業です。この大学は「地域とともに歩む大学」をテーマに掲げているのですが、正課外活動で地域に入っていくきっかけになるようなことをやっています。ゲストスピーカーとして、《まなぶる》にも参加しているボランティアセンターの職員さんや、「サービスラーニング」について講義してくださる看護の先生など、いろんな人を巻き込みながら進めています。
――他学科先生や職員さんがゲストスピーカーになっているとは、すごいですね。《まなぶる》メンバーってつながっていますよね。確かに大学って、学内に目を向けるといろんなジャンルの専門家がいるはずなのに、そういう学科間での知の共有が一般的にはなされていませんもんね。
大城先生 ありがたいです。《まなぶる》のような場があると話もできるし、つながりが広くなりますね。
――枠を越えて協働する。それを学生に教えることで、教員の中にもその意識が芽生えてきたということでしょうか。
大城先生 一人で研究に取り組むことも大切だと思うんですが、自分のノウハウをいろんな考え方とぶつけ合うことができたら楽しさにつながるんじゃないかと思います。
――経済学だけでなく、保育や看護の専門家とも話すことで、本来の研究の視野が開けるようなことはあるのでしょうか?
大城先生 目からうろこが落ちるとはこういうことなのか、というような感じで。本当に自分の専門外の人と話すたびに「こんな考え方があるんだ」と刺激になっています。
――経済学の囲いの中だけでは見えなかったことが見えてきたということでしょうか?
大城先生 はい。それがこの大学のすごい特徴だと思います。
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大城先生のインタビューでは、≪まなぶる≫を通じて、学生だけでなく先生方も互いに学び合い、チームビルディングやファシリテーションを自分なりに習得して行かれている様子がよくわかりました。20名もの、専門も所属学科も違う先生方が、2名1組でチームビルディングを元にクラス運営し、その多様性や個性を活かし合っているからこその学びの場なのでしょう。まさに組織開発に基づいた取り組みだと言えると思います。
また、FDと言うと教員が集まった研修会か何かをイメージするかと思いますが、≪まなぶる≫は授業運営そのものがFDになっていると感じました。そういう意味ではOJT(On the Job Training)型のFDと言えるのかも知れません。
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