医療と教育の専門職業人を育成する神戸常盤大学では、資格教育に偏重することなく、時代や社会の変化に対応できる人材を育成する教育を実践するため、初年次教育に《まなぶる▶ときわびと》(以下、まなぶる)を導入しています。学科の枠を取り払ったクラス編成でグループワークを体験した学生は、さまざまな価値観を持つ他者とのコミュニケーションを経て、それぞれの気づきを得ているようです。
――違う学科の人と一緒のグループワーク体験はどうでした?通常は同じ学科の人としか授業を受けないけれど、グループワークの話し合いで、学科による視点の違いを感じることなどあった?
Kくん(写真左) 意見の違いが楽しいです。人間って自分がわかってることって、そこしか見えないじゃないですか。他を見ようとしても最終的には自分の知っているところに妥協して行き着いちゃう。その目線から離れるために別の意見が大事だと思うんです。こども教育にはこども教育の目線がありますし、医療検査にも、看護にもその分野の人ならではの意見があって。そういう意見がいろいろある場所って考えるとものすごく楽しいなって思います。
Jくん(写真右) 僕はそれほど学科によって学生の考え方が分かれている感じはしなかったかな。でも、《まなぶる》のグループワークの中で、南極に調査に行くときの携行品を選ぶための話し合いをしたときには、学部ごとに違いが現れたなと思いましたね。僕がすごく考えて、これしかない、と選んだのに、他の人の選んだものと全然違っていて。でも、その人の考えを聞くと、確かにそっちのほうが良さそうだと思えたり、そういう視点に医療系の考え方が出てるなぁと思ったり。その体験は面白くて心に残っています。
――《まなぶる》では答えをだすだけでなく、順序立てて考えたり書いたりするなど、高校とは違う学び方を体験できたと思います。それらの体験はどうでしたか?役に立った?
Kくん 僕は考えるのは好きですが、レポート書くのはいまだに苦手。でも《まなぶる》で文章を書くときはフォーマットを用意してもらえたので書きやすかった。テンプレートがあるだけで自分でもレポートを書けるんだと思えました。
後期はディベートの時間もあって、「考える」ということについてもトレーニングになったと思います。テーマは「スターバックスはコーヒー屋かスイーツ屋か」とか「数学は必要か?」などさまざまですが、僕は事前にすごく調べていくようにしていました。例えば「数学は必要か?」というテーマでは、僕は「必要だ」という立場で、図書館でリサーチ。文科省の資料や古代エジプト文明で数学が生まれた背景、スマホなどに使われるIT技術も数学がなければ作れないことなど、いろいろなことを調べて、チームメンバーに共有して戦いました。ディベートの進め方も、まずは見本の動画を見せてもらって、それを参考にして進められたので慣れることができました。
Jくん 僕もレポートの書き方が身についたおかげで、前期のレポート課題はすごくすんなり書けました。あの体験がなかったら、僕はかなり手こずっていたんじゃないかなと思います。
あと、コミュニケーションが苦手なので、「まなぶるをやっておけばなんとかなる」と思って取り組んでおいたのは良かったと思います。《まなぶる》で一番つらかったのは、みんなの意見が出てこないこと。わからないことにぶちあたったときに、「◯◯くんに任せるわ」と人任せになってしまうのがつらくて。グループワークをやるんだったらみんなの意見が出たほうがいいし、そのためにはみんなの意見を出しやすいような場をつくったほうがいいなと考えるようになりました。みんな自然にしていれば話せるのに、さあ話し合いましょう、と意識すると固くなって緊張しちゃう。だから、まずは僕が先頭に立って雑談をふって場を和ませて、意見を出せる環境をつくってから本題に入るような工夫をするようになりました。自然な流れに持って行くことでみんなの意見が出て、そこから化学反応があってさらにいろんな意見が出てくるので。《まなぶる》の前期に、グループで議論が弾まず苦労した経験が活かせています。
――《まなぶる》に関わった一人としてそんな話が聞けて、ちょっと嬉しいなぁ(笑)
では、最後に今後の学生生活の目標について聞かせてもらってもいいですか?
Kくん Jくんはめっちゃ真面目で、言ったことをちゃんとやるタイプなんですが、僕は締め切りを守らないところがあったり、やる気の有る時と無い時の差が激しかったりして、安定感がないんです。気分のムラをなくして、何事にも全力でやれるようになりたいと思っています。グループワークは好きだけど、座って講義を聞くだけの授業は苦手なので、どうしたら集中して取り組めるようになるか自分なりに考えています。
Jくん 僕は教員になりたいという目標が、入学してから少し変わってきている面があって。いまやっているバイトの影響もあるんですが、僕は人の上に立って人を動かすのが得意なんじゃないかなと思うことがあって、まだ漠然とした感じなんですが、経営者になることに興味があるんです。
――「好き」じゃなくて、「得意なんじゃないか」という感覚なんですね?
Jくん バイトは飲食店で、僕はホールスタッフをしているんですが、案外失敗しないんです。だれかと協力してやるというより、自分がその場を任されて周りを動かすほうが、僕には向いているんじゃないかなと思って。その飲食店は夫婦経営で経営している店なんですが、すっごく真面目なところがあって、毎月バイトを集めてミーティングをするんです。「今月の月間目標はこれです」とか「店の経営理念はこれです」とか、そういうことをみんなで話し合う機会もあって。そういう姿がキラキラして楽しそうだなと思って、自分も経営者にやってみたいと思うようになったんです。それを実現するためのステップの一つが、自分が所属しているバレー部のキャプテンになること。チーム経営を実践的に体験してみたいと思っています。
まだ2回生ですし、スクールサポーターとして教育現場に行きだしたら考え方も変わるかもしれません。卒業後の進路についてはじっくり考えていくつもりなので、いまは経営の勉強と、小学校教諭の免許取得を両立させる二刀流でいきたいと思っています。
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2人の学生さんのお話は、チームビルディングプログラムのファシリテーションをしていく際の、とても示唆に富んだものと言えるではないでしょうか。
Jくんの前半のグループは、ファシリテーターにとっても、きっと不活性なグループに見えていたことでしょう。しかし結果的にそのことがJくん自身に「これではいけない」と言う気持ちを起こさせ、後半のグループでの彼の変化に繋がったように見えます。また、それをさらに日常の学生生活(クラブ活動)にも応用して、建設的に、真剣に、妥協なく先輩との合意を得る行動へとなっていったわけです。これは驚くべき変化です。
もしそうだとすると、最初に不活性な体験をしたことが、実はとても意味あることだったと言えるのではないでしょうか。
またKくんは、≪まなぶる≫での学びと心理学での学びがつながり、日常の中で自分の姿勢をふりかえっていました。頭でわかっていると思っていたことが、体感として自分の中に入ってきた時に、思わずボロ泣きしたのではないでしょうか。
これらのことから、チームビルディングのファシリテーションをする上では、その時にその場で起こっていることに一喜一憂せずに、その起こっていることが彼らの今後に活きるように働きかけたいなぁ、と改めて強く感じた次第です。
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