これまで神戸常盤大学の教学改革について、大学経営の側面からのお話を法人本部長 中村 忠司さんに、全学科横断で行う初年次の基盤教育プログラム《まなぶる▶ときわびと》(以下、まなぶる)導入についてのお話をこども教育学科長の光成 研一郎先生に、それぞれ伺ってきました。3番目にご登場いただくのは、実際に《まなぶる》を担当されているこども教育学科 講師 大城 亜水先生。所属学科を越えて教員と協働しながら、専門外の科目のファシリテーションを行うことをどのように受け止めていらっしゃるのか。
じっくり話をお伺いしました。
――まずは、大城先生のキャリアのことから伺ってもいいでしょうか。神戸常盤大学に来られる前はどちらで教鞭を取られていらしたんですか?
大城先生 大阪の大学で1・2年を対象とした少人数教育専門の教員・特任助教として勤務していました。担当していたのは、初年次教育の中の「基礎演習」や「問題解決型のイノベーティブワークショップ」という授業です。私の専門は「ワークライフバランス」なのですが、学生に6人1組でチームを組んでもらって、「ワークライフバランス」について調べてもらい、ディスカッションしながら情報共有をしてもらって、興味をもった課題について掘り下げて考え、最終的にはプレゼンテーションをしてもらうような内容のものでした。
――そういう授業の進め方は、今で言ういうところの“アクティブラーニング”ですよね。それはどこかで学ばれたのですか?
大城先生 師匠や、同じ大学あるいは他大学に勤めている先輩の話やアドバイスを聞くことはありましたが、この方法自体は誰かに教えてもらったわけではありません。毎回自分で授業をやってみて反省して、3年かけて開発したやり方です。私は座学の講義スタイルが嫌いで、当時はそういう用語(アクティブラーニング)を意識していたわけでなく、「どうやって学生を楽しませようか」ということばかり考えていたので。
――「講義はイヤ」とおっしゃるのは、何か理由となるような体験があるんですか?
大城先生 学生時代に講義を受けていた時は、先生が学生の顔や反応を見ながら進めてくれる講義のほうが好きだったんです。だから、私も90分ずっとベラベラしゃべっているよりは、学生の反応を見て進めたいという思いはあります。先生が教室内を移動しながらマイクを学生にあてて、講義内容についてどう思うかと尋ねてみたり、そういう講義のほうが集中できたという印象があるので、真似てみたんです。
――3年間の試行錯誤で、何か発見はありましたか?
大城先生 最初は、こうしたほうがいい、ああしたほうがいいと助言をして、全部教えようとしていたんです。2年目からそういうのをすべてとっぱらって、じっと見守るようにしました。ワークをするときは、「さあ、みなさんでやってください。私は研究室に戻ります。どうしても助けがほしいときだけ来なさい」と。そんな風に自主的にやってもらうようにしたら、学生が「自分たちでやらねば!」となってくれて、そちらの方が上手く回るようになって。放ったらかすことが生産性を生み出すのだな、ということに気づいたんです。
――「授業なのに教えない」というのはかなり思いきった決断だったと思いますが、変えようと思ったのはなぜですか?
大城先生 あるグループのメンバー同士のいざこざに介入したことがあったのですが、それ以来、そのコがずっと私の様子を伺いながら意見を言うようになったんです。「先生はこう言うんじゃないか、だから僕はこう言う」という感じに空気を読もうとするようになって。それはイヤだと思ったんです。
――20人程度しかいない少人数のクラスだと、みんな顔と名前も一致しますしね。なるほど、そういうことがあったんですね。それで、2年目からは思い切って学生の自主性に任せてみて、具体的にはどんな変化が表れたのですか?
大城先生 例えばプレゼンの際、1年目は「制限時間が15分だったら、スライド1枚を1分くらいで発表するのがいい」と事前にアドバイスしていたら、その通りに作ってきて、当たり障りのない発表をやっていたんです。ところが2年目は「スライドの作る・作らないは自由です」とだけ言ってみたところ、内容を即興劇で表現したり、紙芝居風にまとめて発表したり、いろんなことを工夫し始めたんです。そういうところに一番変化が見られたかな、と思います。
――大城先生は非常勤だった2017年度から《まなぶる》を担当されていますが、1年目のことで覚えていることはありますか?
大城先生 1年目は光成先生とペアを組んだので、先生の授業の進め方や学生と会話する姿を見て研究していました。光成先生は、手元のワークシートを見ずに学生のほうを向いて話をされるのですが、どうやって学生の気持ちを引きつけるのだろうかとか、どのタイミングで学生にワークにとりかかってもらうんだろうとか、そういうのは見ていました。
――参考になるようなことはあったんですか?
大城先生 どんな状況でも光成先生は途切れることなく話し続けているんです。学生がだらけたりシ-ンとしたりするような場面があっても、先生が一言発すると教室がドカンと盛り上がるのはすごいなと思いました。光成先生独特のファシリテーションだと思います。
――光成先生のやり方がすごいな、と思う一方で、自分とは違うなというのは感じてらっしゃるんですよね。
大城先生 典型的に違うのは“話す”というところ。私は話すのが得意ではないので、学生の反応を見たり、マイクをあてたり、彼らが自主的に動いたり考えたりしてくれる方にもっていくことを考えています。光成先生は話しながら学生の心をつかんでいくのですが、私は「学生に任せる」ことを徹底しています。
――2年目は誰と組まれたんですか?
大城先生 前期は中田 康夫先生、後期は看護学科の先生です。
――中田先生のファシリテーションは光成先生とは違いますよね?参考になるようなことはありましたか?
大城先生 私はワークをする時はワークシートを読みあげていたんですが、中田先生はワークシートをもとに説明しつつ、「なぜこのワークをするのか」という意図や背景についてもしっかり話されていたのが勉強になりました。しかも、“ふりかえり”をすごく大事にされていて。そこは私がないがしろにしていた部分ではあったので気づかされましたね。いまはワークをするときはそこにも時間を割くようにしています。
――私も2年目から、《まなぶる》の設計に入らせてもらっているのですが、大城先生が感じていらっしゃる通り、“ふりかえり、わかちあい”を重視するように設計しています。大城先生はなぜ、それらが大事だと感じたんですか?
大城先生 中田先生は“ふりかえり”にすごく時間を割いていて、「話す時間が15分じゃ全然足りなかったね」などと言われていて。なぜそんなに長く時間をとるんだろうと思っていたんですが、学生にワークの説明をするときに「ふりかえりをしたときに、みんながどう感じるかが大事」ということを、15回の授業でずっと繰り返しおっしゃっていたので。
――後期にペアを組んだ看護学科の先生は、《まなぶる》初参加の若い先生ですよね。そのときは、《まなぶる》の経験がある大城先生が中心となって授業を進めたようですが、自分でやるようになって気づいたことはあるんですか?
大城先生 時間配分や、次のワークに入るときの切り替えとか、回すのは難しいなと思いました。光成先生や中田先生のやり方を見て学んでいたはずなのに、いざ自分でやってみると全然うまくいかなくて。すると学生のほうが「ほな、次やりましょか」と言って進めてくれるので、やっぱり任せていいんだとも思いましたが(笑)
――それは学生さんもすごいですね(笑)。2年間の《まなぶる》経験を通して、ご自身なりにこの教育の意味や意義を他の人に語るとすると、どんなことになるのでしょうか?
大城先生 一番面白いのは、他学科と一緒に初年次からコミュニケーションや、TBL(チームベースドラーニング)をベースとしたワークを体験できることだと思います。例えばもしこれを経済学部生だけでやったとすれば、話のネタも経済で、その視点からしか気づきが得られません。それが他学科のいろんな専門性をもつ人たちと話ができるなんて、私たち教員でもそんな経験をすることがないのに、18歳からできるのは非常に意義があることではないかと思います。
――そういう学生の声はありますか?
大城先生 あります。こども教育学科の例になりますが、例えば「1年目に《まなぶる》をやっていたことで、保育実習のときに他校の学生よりも率先してコミュニケーションがとれた」と聞きますし、「入学したときは人見知りだったけど、《まなぶる》を経験して、こんなコミュニケーションのとり方があるんだとわかって、実践してみたら上手くいった」という声もあります。《まなぶる》に携わっていない他の先生方からも「グループワークの授業がすごくしやすくなった」という評価をいただいています。
――面白いですね。《まなぶる》は「コミュニケーションはこうとりましょう」なんてハウツーやノウハウなんて教えてないのに。学生が自分で考えてやる、ということですね。
大城先生 教員が教えなければ学生が自分で気がつくのかな、と思います。
――そうなると先生の役割って何なのでしょうか?
大城先生 見守ることだと思います。何かやったあとに話を聞いてあげると、学生はすごく喜びますね。「どうやったの?」と聞けば、「誰々くんがこうしてな、先生がおらん時こうやってん」と返してくれる。「そうか、じゃぁ次も頑張ろうな」「うん」って、ただ話を聞くだけなんですが、聞くのと聞かないのでは学生の反応が違っていて。
――面白いなぁ。それはカール・ロジャーズの提唱する「共感的理解」に基づく傾聴につながることですよね。聞いたら相手が自分で気づくってことですもんね。
大城先生 そうですね。それに、先生から「任される」というのも嬉しいみたいで。今日も授業中に少し抜けないといけない事情があって、1限目に受講した学生に2限目の授業を任せていたんですが、ちゃんと進行していてくれて。「ありがとう」というとすごく喜んでいました。
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