教職員と学生の協働による大胆かつオンリーワンの初年次教育はいかにつくられたのか?一連の取り組みのグランドデザインを描いた副学長 荻田 喜代一先生にお話を伺いました。
摂南大学は大阪府にあり7学部13学科5研究科を擁する中堅総合大学。学生の主体性や課題解決力を養成するために、2016年度に地域社会の課題解決に挑む人材育成を目的とする「ソーシャル・イノベーション副専攻課程」を設置。2017年度より「いま、摂大の教育が大きく変わる」のスローガンのもと、教育改革を実行中です。2018年度は初年次教育を刷新。入学宣誓式イベント「5000人のアクティブ・ラーニング」、その翌日からは新入生約1600人を対象とした「学修キックオフセミナー(チームビルディング研修)」を実施。そして、アクティブ・ラーニングによる新たな教養科目「大学教養入門」を学生スタッフ(スチューデント・アシスタント:通称SA)が主体となって運営するに至っています。
不本意入学による退学者を減らし、「教育の質」を保証
――2018年度は初年次教育に大きな変化がみられました。そもそも、どうして初年次教育の改革が必要だと思うようになったのですか?
荻田先生 大学というのはどのレベルの大学にも「不本意入学者」がいます。ですが、せっかく入学したのですから、「摂南大学はいい大学かもしれないな」と感じてもらえたり、友達や仲間ができたりすることで、退学者が減ればいいなぁと思ったことが1つ。もう1つは、教育の質保証の観点から、「摂南大学を“自分磨き”の場、学生に付加価値をつける場としたい」と思ったからです。
本学には私が在籍している薬学部のように国家資格取得を目指している学生もいれば、文系や理工系学部の学生の中にはそうしたモチベーションのない学生もいます。他方では、ボランティアなどしてアクティブに活動している学生もいて、そういう学生に話を聞くと、自分が成長している実感を持っていて、就職もバンバン決まっていると言う。かっこよく言えば、“自分磨き”のために大学を使っているんです。それで、就職の観点から考えても、入学した時からグループワークを中心に、主体性、コミュニケーション力やプレゼンテーション力、思考力といった社会人基礎力が身につく勉強をさせることが必要なんだと考えるようになりました。
――「大学は勉強する場所。友達づくりなんて自分たちの仕事ではない」なんて話を先生からお聞きすることがあるのですが、荻田先生はなぜ「仲間・友達づくり」に注目されたのですか?
荻田先生 私の高校生時代には好きなこと(バンド活動)ばかりやっていて、好きでない科目の勉強はほどんどしなかったから、ですよ。今の学生は真面目で、言われたことは仕方なくやるけれど、ポテンシャルがあるのに出し惜しみする。だから、勉強の前に、カラを破って 何か突き抜けさせることが大事だと思ったんですね。方法はいろいろあるけれども、どうせやるなら好きなことで頑張らせたほうがいいでしょう。勉強が好きで突き抜けたい人はそれでいいけれども、 勉強があんまり好きじゃないなら、人と話す喜びやアクティブに活動する喜びを感じてもらおうと思ったんです。
実は、そういうことを考えるようになったのは、ラーニングバリューさんの『自己の探求』や、副専攻課程の学生が仲間と一緒に課題に取り組む姿を見たからなんです。その時「チームビルディング」という言葉を初めて知りました。チームで働くと自分が負けそうになっても仲間が助けてくれるし、自分が仲間を助けることでモチベーションもあがって喜びを感じられる。勉強以外でそういう体験をできたら、人工知能(AI)にはない、人間としての力を養えて、勉強や社会活動にもつながると思ったんです。
――なるほど。荻田先生の話を聴いてデシの「内発的動機づけ」を思い出しました。外発的な動機づけ、例えば「単位や金をやる」といったものや、「勉強しなければろくなものにならない」という強迫観念で人は動くこともあるけど、望ましいのは「本人がやりたいからやる」という内発的動機。内発的動機づけによって、学生の主体的な行動を促す、そう考えたということですね。
荻田先生 今まで30年間、薬学教育に携わってきましたが「そんなことでは国家試験に通らないぞ!」「勉強しないと留年するよ!」と学生に言いながら教育してきました。そのやり方がいかに愚かだったことか…。国家試験の合格を目標やモチベーションにはできても、それだけで「喜び」は感じられないんですよね。「やりたいことを達成できたらうれしい」のであって、「そのために勉強が必要だから勉強をがんばる。その結果、達成できてうれしい」ということなんです。
私自身も勉強は好きじゃなかったし、未だに好きじゃない。ただ、面白いことややりたいことがあって、それに勉強が必要だからやってきました。だから学生にも「国家試験に落ちる」という強迫観念で勉強させるのではなくて、「学生自身がもっと楽しいことでカラをやぶって自信をつけ、そのことで自己効力感を感じて、やりたいことに全力で取り組む」という発想です。勉強があまり好きではなかった自分の体験もふまえて、「どのようにすれば勉強が好きでない学生にも勉強の楽しさや成長を感じてもらえるか?」などを考えるようになりました。
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