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【摂南大学】連載4-3/学生の当事者意識が高まるチームビルディング

更新日:2020年4月28日


初年次教育改革の一環として、副学長の荻田 喜代一先生は、新入生1600人を対象とした「学修キックオフ・セミナー」に、チームビルディングプログラムを実施することを決定されました。さらにそのプログラムのファシリテーターに学生を抜擢されます。学生による学生のためのプログラムはいかに実行されたのか?ファシリテーターを務めた当事者に本音を聞いてみました。

SA(Student Assistant)が初年次教育の担い手として大活躍。成功体験が学生生活への意欲向上につながった

――2年生でSAを経験し、3年生になって、新入生の「学修キックオフ・セミナー」のファシリテーターをすることになったんですよね。その経緯について話を聞かせてください。荻田先生が最初に相談したのはGoくんだったと聞いています。


Goくん あれは無謀だと思いましたね(笑)。もともと僕は荻田先生のPBLを履修していて、よく先生と話をしたり、いろいろと相談に乗ってもらったりしていました。ある日、先生から教務に呼び出されて「来年の新入生のために学修キックオフ・セミナーをしたい。うまくやることを目指すならファシリテーターをラーニングバリューさんに頼めばいいんだけど、それじゃ意味がない。君ら先輩学生にしてほしいと思っている。だから学生ファシリテーターなってくれる人をGoに集めてほしい」と言われたんです。


「何を言ってるんだ?!」と思いました。僕は2回、チームビルディング研修の『ジコタン(自己の探求)』を受けて、ラーニングバリューさんのファシリテーターの品質を知っていたんです。なのであれを学生がやるなんてムリだと思いました。でも、お世話になっている副学長からの相談だったので、つい「頑張ります」と返事してしまったんです…。


それでSAメンバーに集まってもらって話をしたら、みんなからクレームの嵐!

「これいつやるの? ファシリテーターは何人必要? 何教室やるの? 対象人数は何人?」

とどんどん質問が出てきて、そんなこと何も決まっていないし、聞いてないし、困って泣きそうになって・・・。その時荻田先生は出張でいなかったので、すぐ「クレームばっかりでできるわけないです」ってメールを送りました。そしたら荻田先生から「いろいろ任せて申し訳ない」という返信が来て。その中で「頼むわ、助けてくれ」と。「俺だけじゃできないんだ、助けてくれ」と。そう言われたのを覚えています。


それで、みんなの疑問点を荻田先生にエスカレーションして、条件をいろいろと交渉をしながら、未確定事項が多いながらもなんとかメンバーを集めました。荻田先生はUNGL※注のTさんにもメンバー集めを依頼していたので、チームSAとチームUNGLが共同で学修キックオフ・セミナーのファシリテーターを集めた、というのがこの企画の始まりのストーリーです。


※注:UNGL(アングル)/西日本学生リーダーズ・スクール。

大学間連携で学生のリーダーシップ養成のための活動・研修を行う学生組織



――この企画を初めて聞いた時、Yukiくんはどう思った?


Yukiくん 最初は『ジコタン』のように、学生一人で1クラス40人のファシリテーターをすると思っていました。やりたい気持ちはあったけれど、その時点では研修の詳細も決まっていなかったので、それは無謀じゃないかと、正直思いました。それに僕は人前で話すのが苦手だったので、まず自分ができるか不安でしたね。でもGoが真っ先に声をかけてくれたので、断るつもりはありませんでした。うれしかったので(笑)。その後、SAでやることになっていったんです。


――学生だけに任せることについては、実は荻田先生も判断に悩んでおられたんですよ。最初は先生と学生でファシリテーションをするという話だったんですが、各学部の先生方からなかなか賛同を得られず・・・。それで学生がメインファシリテーターで先生方は見守り役ということになっていったようですよ。


Yukiくん 12月の学生ファシリテーター説明会までには、チームSAのみんなも覚悟を決めていました。もちろん全員というわけではなく、SAの中でも対応が割れましたが、普段から活発にSA活動をやってた人はみんなやると言ってくれて・・・。


Goくん そうなんです。このメンツは危ないですよ(笑)。


――そして新2年生と新3年生で、2月に4日間のファシリテーション研修を受け、本番に向かっていったんですよね。


Goくん 実は研修を受けた後でファシリテーターをするのを辞めた子もいて、準備も練習もほんとに大変でした。特に新2年生は、SAの経験もないのにハードなことをさせられることになって、不安だったと思います。そこで1クラスを、新2年生と新3年生を組み合わせた2~4人で担当してもらうことにして、それぞれのチームで本番までにさらに練習してもらうようにしました。僕は年下の法学部のコと組んだんですけど、練習するのにこの日とこの日いけるか聞いたら、全部いけますと。僕はその日に2人で話し合いながら練習したらいいと思っていたんだけど、彼は自宅で1人で練習してきてたんです。不安なのでフィードバックがほしいと言うんですね。僕もそうでしたが、みんな必死だったんだと思います。


――学修キックオフ・セミナーの当日の様子はどうでしたか?


Goくん 僕らはラーニングバリューさんのファシリテーターの授業を受けられたのに、新入生は僕たちのファシリテーションで満足できているのかな、と不安でした。ですが、みんな1日目が終わった後のアンケートに「とても満足」と書いてくれていたんですよ! それを見てみんなでハイタッチしました。これで大丈夫だと分かって、2日目、3日目と進んでいくことができました。


Yukiくん 僕の担当教室では基本的に2年生に任せて、僕は補助的なことに徹するようにしました。彼が言い忘れたことを付け加えてあげたり、私語をしている学生にイライラしているようならフォローしたりとか、そんな感じです。1日目はめっちゃ不安でスタートし、最後の後半に失敗してしまって。長引かせるとよくないなと思って、早めに帰らせたことを反省したんですね。ふりかえりをめんどくさいと思わせてしまったのを自分たちの責任だなと思って。やるべきことはやったけど至らなかったなと思った。でも1日目で流れがつかめたので2日目以降はうまくいきました。


――学修キックオフ・セミナーは新入生の満足度も高かったようですが、お二人はファシリテーターを終えて、どんなことを思いましたか?


Goくん これまでも高校や大学のPBLでいろんな活動を経験してきましたが、ちゃんとした成功体験を得たことがなかったんです。でも、今回はアンケートでもSNSでも成功を実感できた。SNSには新入生のつぶやきがたくさんあがっていて、「キックオフ・セミナーだるい」とつぶやいていた子が、終わった後で「楽しかった~」「行く前にだるいと思っている人もとりあえず行ってみて」なんてつぶやいてくれていて。これは自分の成功体験だと思えてモチベーションが上がりましたね。



Yukiくん 僕は先生からのフィードバックがためになったし、自信にもつながった。僕たちを信じて教室の運営を任せてくれて、終わった後も「何も心配してなかったよ」と声をかけてくれました。教職員の方と信頼関係を築けたし、素晴らしい先生やSAやUNGLという組織があることが摂南大学の魅力だなと実感できました。


――ちなみに、現在はSAとしての活動は継続しているの?


Yukiくん 実は今は関わっていません。関わっていけたらいいなって思っていますが、関わり方が分からない、というのが正直なところ。今は2期生のSAが中心となってやっているので、私が一緒に参加しようとしても難しい気がしてます。


Goくん 僕も副専攻の授業にはちゃんと参加してますが、SAとしての活動はしてません。今は1年生のSAは2期生がやってますし・・・。教職員の方には「(2期生と一緒にSAをしてほしいので)1期生も引かないでほしい」と言われたのですが、SAのカラーは学年によって違います。僕たち1期生が入ってしまうことで、せっかくの2期生の色を変えてしまうことになりかねませんから。後輩には「助けてほしかったら言って」と伝えていますが、彼らは僕らがしなかったことにも取り組んでいますし、問題ないんじゃないかなと思っています。



――せっかくファシリテーションのスキルを身につけたのにもったいない気もしますね。副専攻のSAのノウハウやスキルを、先輩から後輩へ受け継ぐ仕組みや、発展させる場を考えることも今後の課題になるかもですね。

ちなみに副専攻をきっかけとするさまざま経験は、二人にとってどんなことにつながったと思いますか? そしてこれからはどうしていきたいと思っていますか?


Goくん 僕はもともと不得意ではなかったですが、人前で話すスキルにさらに磨きをかけることになったと思います。それから、中学生の頃から憧れていた企業で働けるようになったことも大きいです。その会社に採用されるまでには、面接があったりワークもあったりとステップは多かったのですが、『ジコタン』や副専攻で経験したことを話せたのはよかったなと思ってます。もし別の大学に行ってその会社を受けても受かってなかっただろうと思うので。いろいろな気づきを得たり、憧れの会社で働けるようになったりしたのは副専攻での経験のおかげだと思います。


今はいろんな人に認められているという自信もあるので、毎日が充実してます。学業のかたわら、憧れの企業で仕事もしていて、やりたいことも見つけられたので、今後はその方向で頑張っていきたいと思ってます。



Yukiくん 最初にSAのメンバーに出会った時、「この人たち、すごいな」と思ったのを覚えてます。明らかに他の学生とは違ってて、自分は遅れているから追いつきたい一心で頑張ってきました。そのおかげで、苦手だった人前で話すこともできるようになったし、仲間にも認められるようになったのがすごくうれしくて。だって高校の時みたいに引きこもっていたらできないことじゃないですか。今はこうして明るく過ごせることに喜びを感じてます。


僕は本気で学問をやりたくて大学に入ったので、経済学をつきつめる道に進みたいと思ってます。副専攻で得た経験は自分の研究にもきっと活かせると信じてます。



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2人の学生さんのお話からは、自己の探求チームビルディングを進めた学生さんたちが、もっとこの授業をよくしたいという想いを共有し、先生や職員さんからの「ファシリテーターやってくれない?」や「説明会で説明してみない?」などの新たな投げかけを自分たちでモノにしていき、成功体験を積み上げて自信を深めていった様子がうかがえます。そしてその一つ一つのプロセスが更なるチームビルディングに繋がって行ったように感じます。彼らの「このメンバーならどんなことでもやれる」というコトバがとても印象的で、今でも強く耳に残っています。

 エドワード.L.デシは「自己決定理論」の中で、『内発的動機づけによる活動は、外発的動機づけによる活動よりも、楽しく、質が高く、持続する』と述べており、この内発的動機づけの元になるのが「自己決定(self-determination)」「有能感(competence)」「対人交流(interpersonal relatedness)」であるとしています。摂南大学の学生さんのSAの活動は、この内発的動機に支えられていたのではないかと思います。とすると、この内発的動機を引き出すにはある種の順番があるのではないかと思うのです。すなわちチームビルディング研修(自己の探求)がより深い対人交流(interpersonal relatedness)を生み出し、相互信頼感に繋がった。そこに教職員からの課題の投げかけがあった。その課題をSAチームとして解決すべく自己決定(self-determination)していった。そして自分たちの活動をふりかえる中で有能感(competence)を高め、更なる活動へとチャレンジをしていった。

以上のように観てみると、学生さんをチームとして活性化するのに大切なのは、

  1. 最初のチームビルディング

  2. 適切な課題(タスク)の提供

  3. 全体プロセスのふりかえり(これが更なるチームビルディングに繋がって行く)

と言う3つのプロセスと、常に学生さんを信頼しながら彼らの主体性に依存する(自己決定を促す)関わり方であるように思うのですが、いかがでしょうか。


 一方、SA1期生である彼らが、2期生の活動に対して少し距離をおいて考えているのも印象的でした。せっかく立ち上がった学生組織が学年を超えてなかなか繋がって行かない、と言う悩みをよくお聞きしますので、まさにその現象なのかもしれません。

 この現象に対しては、北森の著書「組織が活きるチームビルディング」(2008年 東洋経済新報社)の中に書かれてある『組織を動的にとらえる見方』がヒントになるかもしれませんが、編集後記がえらく長くなってしまいますので、詳しくはまたの機会に譲りたいと思います。

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